【作戦決行その3】
(な、なぁ? ヴィット。ちょっといいか?)
「にゃ! にゃ! にゃっ!!」
【
この万物すべての心に干渉するチカラ。人間、動物、魔物はそうだが、生物以外の物にまで干渉して繋ぎ合う。
(思考にふけてるところ悪いんだが、どうか聞いて欲しい)
「り、リズムが全然違うにゃ! 読めないにゃ!」
物に心はないと言うが、俺の能力がそれを否定する。
カインの体に入り込んで聴覚を強化すると、感じ取れる気配に探りながら微かに聞こえたあの時の音を待つ。
(いや、色々真剣に考えているのは分かるよ? けどさ、まず目の前ことも気にしようぜ。な?)
「こんにゃ……! にゃにゃにゃ!!」
標的であるカインの体を刺す気配はは感じれるが、正確な位置まではまだ割り出せていない。
(お、おーい? 聞いている?)
「くにゃ!? な、なんでにゃーーああああああ!?」
(もしもーし? 帰ってこーい)
恐らくかなり離れた場所から狙っているのであろう。
感じ取れた時点で居場所を察知できなったのはその所為だ。
(なぁ? ホントそろそろマジで可哀相だからさ。見てやれって)
「はぁ……はぁ……にゃ、にゃああああああ!!」
(あ、キレちゃった。ゴメン)
正直他人の体だと能力が使い難い。慣れているカインの肉体だからこそ、感知機能もある程度は普段と同じように使用できるが、可能であればやはり自分の肉体で探知したかった。
「くらえ……! “ライト・バースト”!!」
「ん? ……ふっ!」
と、そこで思考中断して巨大な光線を放ってきたリリィちゃんに向ける。カインもさっきからブツブツ言っていたが、この状態だと先ほどまでの戦いから見ても光系統が得意なようだ。
その攻撃を剣の腹で滑らすように上に逸らしながら感心して眺めた。
「う、うそ……」
余程自信のある攻撃魔法だったらしい。
ショックで目を大きく開き楽しげだった顔が凍り付いてしまっていた。
まぁ、さっきまでいい勝負だったのが、すっかり一方的にあしらわれてしまえば……。カインの体で下手に怪我はできないから真面目にやったけど、やっぱり少し加減したほうがいいか?
見ている観戦者たちも急な展開に追い付けず、周囲で動揺が広がっている。カインのパーティーメンバーも圧倒的な流れに驚いている様子だ。が、それでも何か変だと感じたか、少しずつ疑わしい眼差しに変わりつつある。
特に付き合いの長いマリアさんや同じ近接タイプのミオは動きからか、より濃い疑いの眼差しでこちらを凝視していた。
ちなみにすべて察している様子のリアナちゃんだけは、本体の俺に詰め寄っている状態だった。意識の殆どをこちらに送っている為、ほぼ向こうは直立不動であるが、一応あの中にも二人いるので、いざという時は大丈夫だろう。
(にしても、思ったより動き易い。前より肉体的に向上しているようだな)
(そうなのか? よく分からないが、学園でも鍛錬はしっかりやっているぞ)
中で待機しているカインに“ああ”返事しつつ、体の調子を確認する。といってもさっきまでの思考の最中にもう終えたけどな。
スピード強化の“ライトニング・アクセル”が健在だったので非常に動き易かった。リリィちゃんも光の強化魔法で鋭い剣捌きを披露してくる。剣技と魔法技能はAランク相当はあるし、動きを見れば本人もそれなりに激戦を潜り抜けてきたのもよく分かる。
だが、それはこっちも同じこと。
リリィちゃんには悪いが、ハッキリ言ってこの体でも十分相手できるレベルだ。
「どうなってるの!? さっきまで全然違う!!」
「付け加えておくが、別に手を抜いていたわけじゃない。ただ、今の俺は……」
焦りを覚えて本気で挑んできたようだ。全身を光して迫ってくるリリィちゃんだが。……申し訳ない。
「さっきの俺よりも……君よりずっと強い」
(そうだな。……だが、いつかは超える)
──ああ、楽しみにしているさ。
剣を添えてカインの構えではなく俺自信の剣技の構えを取る。
その動きに合わせて発動している“ライトニング・アクセル”が俺の意思に関係なく魔力を放出させる。
「よっ」
試しに片手で持っている魔剣を振るい感覚を確かめておく。
俺自身では魔法と同じく魔剣の能力も使えないが、中で待機しているアイツなら楽勝だ。
「っ……!」
雷の魔力を浴びて魔剣が青い稲光を起こす。
それを見てリリィちゃんが息を呑みすばやく剣を握り締めるが、俺はそんな彼女を一瞥しただけで地面を軽く蹴る。
「やぁ?」
「っ……にゃ!?」
瞬間、リリィちゃんの眼前へ。
“
カチッ────。
「ッ!!」
耳に元に入ってきた微かな金属音。騒然としている
あの時に同じ殺気に満ちた音が俺の耳に入ったのだ。
遂に来たな。待ってたぞ。
(カイン!! 強化しろ!!)
(“リミット・アクセル”だな? いくぞ!!)
内側で控えているカインに呼び掛けて魔法を発動させる。元々魔力を持たない俺では魔法操作は難しい。
しかし、“煌気”を扱って使う身体強化に慣れている為、身体強化系のみは他の魔法に比べても扱い易い。
「ん、新しい強化! けど……!!」
ていうか、使い手でもあるカインよりも身体強化には自信があった。
“リミット・アクセル”はスピード系の身体強化最強の魔法だが、普段カインは決して使うことはない。コントロールが利かず言うことも利かなくなるらしい。悔しげに言っていたのを覚えていた。
「まだ負けてない!!」
「いいや、残念だが……」
纏っていた
これまで以上に速く駆けるリリィちゃんを捉えて迫ってくる刃を剣先で逸らす。膝を蹴って柄の部分で軽く横から打ち体勢を崩させた。
「く、にゃ!?」
「変則の剣技は凄いが、焦ると大事なところで乱れているぞ?」
突撃してきたリリィちゃんを横に払い落とすと、さっさと気絶なり場外に落とすなりして、発生した音の位置と放たれる殺気から奴の居場所を────。
バスッーー!!
「──ッ!!」
それはほぼ同タイムだった。
ちょうど位置を特定し切ったところで、その場所からまた聞こえてきたのは火薬が弾ける音。
音が抑えられているが、それは銃声だった。
「────」
だが、俺はそれを認識するよりも前に割り出した方角へ振り返り。
「来たか」
きっと凶悪な顔に変貌しているであろうカインの顔で、薄い笑みを浮かべ。
辺りを満たす騒音を突き破り大気を貫く。紫色に発火して飛でくる小さな針の弾丸を────。
(全開で動かすぞ。意識が飛びそうになるが、踏ん張れよ?)
(へ?)
使い手であるカインに忠告しつつ、“リミット・アクセル”を最大まで引き上げる。
“リミット・アクセル”の影響で体感時間が加速している思考と肉体を動かして、周囲の時間が遅く見えるほど加速した状態で弾丸の迎撃に移った。
(煌気閃剣術────“
コンマ数秒にも満たない加速された時間の世界で、俺は弾丸に向けて剣を振るった。
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