【警備開始その9】
「っ、なんの!」
愛用の剣を叩き折られ肩の部分の鎧が切られたリリィ。
焼けるような火の剣撃に飲まれて、押し出されると後へ引きずられた。
だが。
「へぇー、耐えるか」
「あ、当たり前にゃー!!」
そのまま武舞台から落とされそうになるが、横に飛び出て押し出そうとする衝撃波から抜け出す。武舞台の端、ギリギリのところで持ち直して折れた剣の先を触れた。
「“ライトソード”」
魔法を行使して触れている折れた部分が光り出す。
折れた部分から伸びて、剣の姿へ象り光が収まる。
付いていた装飾もそのまま。
折れた筈の剣が元に戻ったのだ。
「……光の魔剣。剣型のマジックアイテムか」
「にゃはー! 良いでしょう〜〜?」
「ふっ」
元に戻った剣を掲げて得意げに見せるリリィ。
自慢そうにも見える彼女の発言であったが、カインは気にした様子はなく持っている剣を同じように掲げて見せた。
「オレも
赤きオーラを纏わせている剣を見せながら、カインは口にする。
冒険者になってしばらくして手に入れたロングソードの魔剣。
親友からこれが相性がいいと勧められて以来、この剣とは数々の死線を潜り抜けてきた。
「ふ〜〜ん? そっ!」
適当な返事をして猫のように跳躍。
剣を大きく振り上げて飛びかかるのと同時に連続剣技を披露する。一瞬で10数回以上の光剣の舞を浴びせるリリィ。
「っ!」
その神速剣技にカインの対応も早い。
剣の腹を盾のように掲げて、纏わせている赤きオーラを膨らませる。シールドのように展開させて振り撒く光の剣技を防ぐ。
下から振り上げるように構える。
赤きオーラが青くなり雷が発生。剣から放出されて一気に大きくなった瞬間。
剣に力を込めてカインが振るう。
楽しげな笑みを浮かべてリリィも剣を振るう。
「“スパーク・エッジ”!!」
「“ライト・クロス”」
剣を振り上げて青き雷の斬撃をリリィに向けて放つ。
ほぼ同時に膨れ上がった光の剣でリリィも剣を振る。
均衡がし合う青き雷と眩い光。
お互いの剣がぶつかり合うまで接近。接触した途端、互いに己の剣技もぶつけ合った。
神速でリリィが剣を振るいカインが剣で受け切る。
体勢を崩させて胴を狙うカインが剣を、リリィが跳ねるように躱して剣先で頭部を突く。
「ふっ!」
「なにゃ!?」
その剣先をカインは柄の部分で止める。
払うと回転しながら横薙ぎでリリィの伸びた腕を刈り取ろうとするが、突きの体勢のまま勢いを止めず、カインの横薙ぎを飛び越えるように跳躍。
「にゃ!!」
「っ!」
躱して背後を取るリリィ。
剣から放出される光が収縮。鋭いレイピアのような形へ変わり、射抜くように構えて。
「“スマッシュ・レイ”」
突きと共にその剣先から光線を放つ。
人体を貫通しかねないほどの強力の魔法だ。
しかし。
「“ライトニング・アクセル”」
背後を振り返らず、青き雷光を纏ったカインが駆ける。
リリィの突きが放たれる前に、彼女の背後へ回り込むように駆けて行った。
「っ!?」
「ハァーー!」
リリィが見せたような神速剣技。雷のスピード強化を維持して止まることのない連続剣技で追い詰めるカイン。
型はまったく違うが、速さでは負けないと食らいつくリリィを翻弄させていく。
「はぁ……はぁ……」
そして次第に息を切らし始めたのはリリィ。
まだ笑みを浮かべたまま、楽しげに戦っているが、体力は無尽蔵ではないようだ。
瞬速で剣を振るい続けるカインに追い付こうと食らい付いていき、肩で息をするようになって額に汗が出ていた。
「はぁ……剣技も相当だね。ま、街でも、随一なんじゃない、……のかにゃ?」
疲れていても同じ魔剣使いとの戦いが楽しいのか、息を切らすもスキップ気分でリリィが口にする。
油断して一度は押し負けそうになったが、お陰で楽しみを失わずに済んだ。
いきなり剣を折られて押し出された時は焦ったが、実際のところダメージはほぼなかった。
カインが手加減したというのもあるだろうが、軽装でも防御力はしっかりある甲冑が身代わりになったことで無傷で済んだ。
それでも凄まじい剣技。
リリィはからかい混じりに賞賛を口にしたのだが。
「いいや、それは違う。オレなんか、同年代でも所詮2番手だ」
意外なことにカインからの返答はリリィが想像したのとは少し違う。
「ん、にゃ? 2番?」
てっきり謙遜的な態度でもするのかと予想していたが。
同年代でも所詮2番手……。
つまり、自分たちと同い年の誰かが……。
「ああ、あいつに比べたら……オレなんてまだまだだ」
何処か悔しく、しかし、何処か嬉しげな表情のカインは言う。
本人はあまり剣を好まない所為で、目にする機会は極端に少ないが、彼の剣捌きにまだ自分が届いてないことを自覚している。
「だが、それはあくまで今はだ。いずれオレは
「んにゃ? 誰のこと?」
そう力強く宣言するカイン。
まるでリリィではない。別の誰かに伝えているような言い回しにリリィは首を傾げた。
*
「たく、あのバカたれ。ちゃんと分かってるのか?」
【ヴァルキリー】と剣技を繰り広げるカインを見て、俺は苦笑して呟いた。
一応先ほど会った際、アーバンさんと一緒に作戦を伝えたのだが。
「遅かれ早かれ、超えるさ。まぁ……いずれだが」
剣の勝負はしないが、また組み手でもするか?
「なにがいずれ何ですか?」
「……」
と、そこで隣で見ていたリアナちゃんに振られる。
配置としては俺とは離れた位置の筈だが、何を思ったかカインのところから戻って来てからずっと引っ付いて来ている。
“何故だろう?”と内心首を傾げていたが。
「いや、なんでも……」
「それって、兄さんと繋げている
「…………」
バレてました。
どうしましょう? 見張られているよ。
まぁ、やるけどね。
*
───カチッ。
その時、彼の姿をスコープ越しで覗き込んでいた彼女が
試合が始まった時点からロサナは、いつでも撃てる準備が出来ていた。
スコープの照準をカインに合わせて、進行していく試合の中でもっとも大きな隙を待っていたが。
「そろそろ頃合いね」
ジッとカインとリリィの激しい剣戟を見ていたが、遂に動こうとしていた。
本来なら確実の隙を狙うべきだが、遠目から見ても
このまま試合が終わっては、仕留めるのは困難。
ロサナは多少のリスクを承知の上で、カインを仕留めようとライフルを構える手に力を込めた。
「残念ね。思ったより好みなのに」
スコープ越しで改めてカインの顔を見て、ロサナは残念そうに呟く。
顔立ちも良いが、騎士をに向ける真っ直ぐな眼差しを見て、嬉しげに微笑んだ。
「本当に好みの顔だと思ったけど、動きもいいわね。真っ直ぐな瞳もお姉さん的には評価が高いけど……」
そして徐々に浮かべていた微笑みに冷たさが混じり始める。
持っている魔銃に魔力を込めていく。
「まぁ、これも仕事なのよ。……ごめんなさいね?」
少しだけ申し訳なさそうに謝罪を溢すと、起動した魔銃に手をかける。
手慣れた感じに、弾倉から弾を装填させた。
カチャと金属音が鳴って準備が整うと、銃口を剣を振るうカインの心臓に合わせて、引き金に指を入れて。
「───!」
引いた。
魔銃の効果で銃声は抑えられ、銃口から魔力を帯びた弾丸が発射された。
「……え?」
だが、その時だった。
スコープの先で、胸元に銃弾を浴びようとしているカイン。
剣で
まるであの青年のように察知して、視線を遥か遠くの屋根へ。
“来たか……”。
口元で一言呟き、迫ってくる瞬足の弾丸と、スコープ越しのロサナの目と視線を合わせた。
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