【警備開始その8】

「ヤッホー、あなたが“剣星”くん?」

「そういう君は“剣姫”かな、お嬢さん?」


一人は幼き少女ような騎士。

軽装のような甲冑姿に短めのスカート。腰には白き柄の剣。被っている兜からは特徴的な金髪のポニテをして楽しそうに相対する者を見ていた。


チーム【ヴァルキリー】所属。期待のルーキーのリリィ。

ランクはBで戦う相手よりも低いが、実力はAランクに届き能力的にもそれ以上の可能性を持っている少女だ。


対するは若き剣士。

青と黒線のロングコートに黒のズボン。背中には愛用の剣を指して、相手と同じ金髪の彼もまた愉快そうな笑みを見せている。


スザク街のエース。最速のAAランク冒険者のカイン。


ローブを着た審判員の呼びかけで武舞台に立った両名。

お互い向かい合うように立つと不敵な笑みで挨拶を交わす。


「にゃははは! 剣の異名持ちが相手だとテンションが上がるにゃぁー!」

「こっちもだ。噂の華の剣舞、見させてもらう!」


そうして審判に促されるようにお互い剣を抜く。

静かに構えて両者の魔力を視覚化するほど漏れ出したところで。


「!!」

「!!」


審判の合図と共に互いの剣が交差した。





「始まったわ」


そして待機していたロサナも動く。

誰にも気づかれないように銃を構えてスコープ越しでその試合を見ている。


相手と思われる少女騎士とロサナの暗殺対象のカインが剣をぶつけ合っている。

相手があの【ヴァルキリー】のルーキーだと言うことは想定外であったが、その分カインの苦戦は免れない。


噂しか聞いてないが、あの年で実力は相当なものだと言われている。

寧ろの予定の騎士が相手をするよりも隙を作りやすい筈。


「さて、じゃあ一番厄介そうな彼は何処かしら?」


さらに注意深く観戦者たち観察して、彼女が警戒しているヴィットを探す。


居ないかもしれない(居ないほうが寧ろ助かるが)。

しかし、ロサナは少なからず居ると思っている。あの男が仮にカインの仲間であれば試合を見に来ている可能性は高い。お店の店員のようだが、それでもこの試合を観戦するだけの余裕はあるだろう。


それに、あの時彼に見つかったことがロサナを必要以上に警戒させていた。


「───! ……いた。あのお仲間と一緒」


そして彼をスコープに捉えたところで、彼がまだこちらに気付いていないことを確認して、スコープをまたカインに戻した。





「どうしたものか」


試合が始まり観客たちが盛り上がる中、ヴィットは難しい顔をして呟く。

視線は武舞台に固定しているが、実はあまり集中できていない。


カインの仲間の面々は警戒しつつ試合に夢中になっているが、ヴィットはいるかもしれない別の存在に気が散って、それどころではなかった。


「どこかは……、分からないよな」


目的の相手の位置が分からない。

この人混みでは不可能に近いの分かっていたが、正直ヴィットの探知能力は現在使い物にならない。


アーバンの情報からターゲットになっているかもしれないカインを見張れば、あの視線の主とも出会えるかもと思っていたが、この状況ではそれはとても困難だった。


だが、どちらにしても手が出せない。

人が多いせいもあるが、目的が確定しているわけではない以上。あらゆる可能性に対して注意しないといけない


闇雲に動くのは自殺行為。ヴィットもそれを理解しているから不用意に動かないのだ。


しかし、それでも可能性あるのなら。


「この策が無駄にならないことを祈りたい」


そう願わずにはいられない。

とにかくいつでも動けるように用意だけはして、カインの試合に集中した。





『『おおおおおおーー!!』』


激しい剣舞の交差。目でも追いきれないハイスピードの激闘。

それを見ていた観客たちは騒然としていた。


「ぬにゃ!」


スピードのほうはリリィが上であった。

小柄なことも理由かもしれないが、猫のような俊敏かつ変芸自在にも見える身体的な能力の高さから繰り出される剣舞。


初めはただの剣のぶつけ合いであったが、ギアがあったかのようにリリィのスピードと剣舞の速さが上がっている。


体感的には最初の時の二倍以上。

身体をコマのように回して咄嗟に守りに入るカインに、剣の嵐を浴びせる。


加速魔法の“アクセル”を使用しているようだが、それにしても速い。

同じく“アクセル”を使用して追いつこうとして、なんとか剣撃から守るしかない状態のカインとは全く違っている。


「うにゃにゃにゃにゃ!!」

「ふっ、はぁ!」


しかし、そのカインも負けていない。

スピードで負けている分。体術、剣術、魔法と駆使して対抗する。


リリィの剣舞は確かに速いが、それでも完璧ではない。

体力面は元気に剣を振るう彼女からは、まず狙えないと思えるが、その剣舞には予想のつかない剣撃の嵐に見える。


だが、その剣舞にもその特徴と弱い箇所があるのを、カインは受け続けることで見分け出した。


「にゃははは!! どうするの!? お石さんみたいのままじゃ勝てないにゃよ!?」

「……心配無用だ。もう───見えた!」


激しい動きの中にある僅かな急所。

剣舞を繰り出す際に起こるその歪みをカインは攻めた。


「ここだっ! 」

「んにゃっ!?」


剣を一閃、リリィに打つ。

反応が速いリリィは避けようとしたが、剣舞で力を放出した状態で一時的に硬直して動けないでいた。まさかそこを狙われるとは思っておらず、驚きの声で出しつつどうにか剣でガードする。


「それで防いだつもりか!!」


吠えるように声を上げて剣を振るうカイン。

その際に身体強化の一つ、“ヒート”で筋力を上げる。


体から赤きオーラが溢れると腕。そして剣へと集まっていく。


「“レッドアーク”!!」

「にゃ、にゃああああああ!?」


剛の剣技の一閃でリリィの剣を両断して彼女の鎧を斬り裂く。

赤き灼熱のオーラがリリィの体を押し潰した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る