【通常営業その3】

スザクの街には学園の校舎が二つ。

両方とも離れているが、初等部の校舎と高等部の校舎がある。


「やぁカイン君、よく来てくれたね」

「ええと……学長、オレ……何かしましたっけ?」


そしてカインが在中する高等部内の学長室で、彼は学園長に呼び出されていた。


「ハハハ、そんなに畏まらなくていいんだよ。何も懲罰を伝える為に呼んだわけじゃない」

「そ、そうですか?」


若い男性で窓の外を見ながら爽やかな笑みを浮かべるが、カインの方はかなりぎこちない笑みである。

深く考えないようにしているが、どうしても脳裏にいつも自分のことになると、引くほど暴走する女の子達を想像してしまう。


この時もし親友のヴィットがいたら、深みのあるジト目がくるであろうが。


「おや? 何か思い当たることでも?」

「いえいえいえいえ、ありませんありませんとも……!」

「…………そうですか」


後ろめたいことが満載なようだが、話を進めたいこともあり、学園長も流すことにした。


「では用件を話そうか」


そして笑みを引き締めると、部屋の中央に設置している自身の椅子に座り、手前にあるテーブルにとある資料を置いた。


「カイン君は3日後に行われる、イベントのことは知っているかな?」

「え、あ、はい。年に2回、春と秋にある祭りですよね?」


生まれた時から街に住んでいるカイン。

当然、祭りのことも知っていたが、だから何なのかと首を傾げる。


「実はスザク街の中央広場で多くの催しがあるんだが、そこで舞台を用意して演劇や演奏など行う予定でね」

「ああ、確か……」


そこまではカインも知っていることなので、特に驚かず聞いている。


いつも女性陣に連れ回されてばかりで見ていないが、何度か街外から有名な劇団や歌手のチームがやって来ていたことを思い出す。


「その演奏者達は、この学園の卒業生達なんだ」

「え」

「しかも我が国でも有名なチーム【ヴァルキリー】だ」

「あれ? ヴァルキリーって確かヴィットがファンの…………え、ええええええええええええっ!?」


思わず素っ頓狂な声を上げてしまうが、こればかりは仕方がないと言い訳したい。


女性だけのメンバーで出来たチーム。

歌手アイドルとして有名でありながら、冒険者チームとしても一目置かれている。


Aランクチーム【ヴァルキリー】がまさか自分の先輩だと知り、あまり頭脳派ではないカインの頭一瞬のうちにフリーズした。


「カイン君? もしも〜〜し?」


学園長の呼び掛けにも、しばし反応できず、本題を聞かされたのは随分後であった。





「収納系のマジックアイテムとはまたレアな……」

「うわ……」


お客さんが用意していたのは、なんとマジックアイテムの中でも高価な代物。

物の収納が可能なアイテムであった。


(魔力が使えない俺には縁遠い物だが、使える人からしたらこれほど役立つアイテムはないだろう)


見た目はただの小さな袋にしか見えないが、その中は空間魔法で異次元となっている。

お姉さんが持っているのがどれだけ高性能かは分からないが、並べられた物を見た限りなかなかの物であるのは間違いない。


「っ、これって!!」


だが、他にも驚く部分があってアリサさんもそこを見てさらに驚いていた。


「Bランクのデス・ウルフにレッド・バイソンか」

「この辺りでも討伐が難しい魔物よね?」


隣で見ていたアリサさんが尋ねるように聞いてくるが、俺は答えれそうになかった。


並べられた魔物の数にもビックリしたが、どれもこれも高ランクの魔物ばかりだ。

しかも、その中には珍しい魔物も含まれている。

いま口にした魔物はこの街の近くの森や広い草原、河川などで出てはくるが強い上、逃げ足も速いタイプだ。


「この街に来る途中の森で見かけてね。資金には困ってなかったけど、仕事前の準備運動にはなったわ」

「準備運動……ですか」


高ランクの魔法を準備運動ついでに仕留めるとか、想像以上に出来る人のようだ。


「で、では始めましょうか、ヴィット」

「りょ、了解です」


アリサさんに促されて、鑑定道具を揃えて検品に入る。

しかし、殆ど傷もなく剥製にも出来そうな状態に俺もアリサさんも作業の手を止めて見入ってしまう。


(本当に凄いなこの人。見覚えないけど、もしかして二つ名持ちの高位冒険者さんか? ───ん)


と検品を進めていると、一つ気になるものがあった。


「……弾痕」


初めは矢か魔法弾の跡だと思ったが、それは戦闘武器のマジックアイテム───に使われる弾の跡だと気付いた。


(こいつは確か首の後ろ───ちょうどこの辺りが急所だったはず。角度的に矢などの飛び道具系だと当たりにくいが、これは1発で当ててる)


“アナライズ”を使うことで状態を調べて、魔物の状態と弾の傷跡から予想をしていると、ふと他の魔物にも目を向けて見る。


(やっぱり全部1発でやられている。しかも急所を的確に……)


これだけの魔物を1人で討伐しただけも驚きであるが、すべてたった一撃で仕留めているその技量に驚愕のあまり女性に目を向けて────


「ふふっ、なにかしら?」

「…………」


すると女性と視線が合う。

さっきはニヤけるのを堪えるのに精一杯だったが、今は引きつりそうな口元を平常にするので精一杯であった。


(ああ……この人あれだ。間違いなく触れたら危ない方の女性だわ)


ちなみに彼女の名はロサナと言う。

精算を終えたところで彼女がそう名乗っていた。


(一応覚えておこう)


さり気なく記憶のファイルに保存した。

名前や特徴────我が眼力で見切ったスリーサイズも正確に!





「うーん、割といい部屋ね」


街に入る途中に倒した魔物の買取を専門店で終えた後、ロサナは泊まることにした宿の一室で荷物を置くと窓から街並みを眺めていた。


「思ったより良いところね。お祭りが近いかしら? 活気もいいわ」


少し時間を作って見て回るのも良いかもしれない。

そう楽しそうに呟くと腰に付けているアイテムボックスの袋に手を入れる。


そこからいくつかにバラバラにしてあるパーツを取り出す。

部屋に設置してある机の上に並べて、専用道具も取り出して一つ一つのパーツを繋げていく。


すると合わさったソレはある武器へと形を変える。

魔力を動力にすることで扱えれる銃。


狙撃型のライフル銃をロサナは手に持って状態を確かめる。


「───うん、問題なし」


そして完成されたそれを構えるロサナ。

カチャッと金属部のレーバーを引いて、撃てる状態にすると部屋に置いてある鏡に銃口を向けた。

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