第二章『目利きな店員さんは時々仕事人な冒険者さん』

【通常営業その1】

スザクの街には広く、人口が多いため四方には雑貨店や書店、武器屋や食品店など建物が沢山存在している。


そんな建物のうち1つである屋上。

目立たない程度の高さがある場所で。


「残念ね。思ったより好みなのに」


時刻は昼過ぎ頃であった。

頭から茶色のフードをかぶった短髪の紫髪をした女性。

困ったような声音で、屋上から離れた人の多い広場の会場を見ながら呟いていた。


彼女はフリーの賞金稼ぎであるが、普通の賞金稼ぎとは少し異なっていた。

獲物は公式的に載っているブラックリストの犯罪者だけでなく、逆に犯罪シンジケートから厄介者と認定されている冒険者や騎士、傭兵などが載っている裏ブラックリストなど。


区別なく狙っている二つ名持ちの賞金稼ぎだった。

そんな彼女のことを“魔弾の瞳”と呼ぶ者もおり、奴に狙われたら気付かない間に終わりだと言われるほど危険な存在であった。


そして今回の獲物もまた、彼女に気付くことなくスコープ内に入ってしまっている。


構えている武器はマジックアイテムでもある狙撃型のライフル魔銃。

彼女は搭載されたスコープから標的を覗いていたのだ。


スコープ内にいる金髪の若い男性────名前はカイン。

情報では2年程前ではAランク冒険者としてスザクの街で活躍していたが、今は学生となって学業に専念しつつ、パーティーを組んでいるそうだ。


冒険者のような青を基調とした服装をして、外で行われている催しの会場の舞台で、剣を握って向かい合う相手と試合を行なっていた。


おそらく見世物であろう。

カインが立っている舞台の中心として、周りには多くの観戦者が声を上げて、相手と共にカインの声援をしている。


カインと相手は剣を交えて、凄まじい剣戟を繰り広げる。

観客もその剣のぶつかり合いに興奮した様子で、会場が歓声に包まれていた。


「本当に好みな顔だと思ったけど、動きもいいわね。真っ直ぐな瞳もお姉さん的には評価が高いけど……」


そうして嬉しそうに微笑んでカインの戦いぶりをスコープ越しで観戦していたが、ふと息を吐くとその微笑みの色に冷たさで混じり出す。


徐々に思考が仕事の───賞金稼ぎとしての状態に入って、カインを獲物として捉えていた。


「まぁ、これも仕事なのよ……ごめんなさいね?」


そして最後に少しだけ申し訳なさそうに、スコープ越しで彼に向かって謝罪すると思考も切り替わった。



“魔弾の瞳”は、手動装填で弾倉から弾を装填する。

狙いを彼の胸元、心臓部分に合わせて引き金に指を添えると、


「────!」


躊躇うことなく、引き金を引いた。

発生するフラッシュと魔法に抑えられた銃声、そして銃口より魔力を帯びた弾丸が発射された。





「う〜〜ん」

「ど、どうかな、ヴィット君?」


色々な物が置いている中古店『静かな丘の上』は、普段住んでいる家の裏側半分で開いている。


1階では沢山の棚などに並んでいる品の奥で、俺やアリサさん用の机があり、そこで会計や買取を行なっている。……偶にだが、ちょっとした修理もしている。


2階にも品は置いていあるが、基本は客は上がらず物置として使っている。

アリサさん達の祖父の代から続く店ということもあって、街でも人気のある店なのだ。


「う〜〜ん」


で、そんなお店の平店員でもある俺は現在、常連のお客が持ってきた書物の鑑定を行なっていた。

まぁ不思議そうに思えるが、これには理由がある。


人だけでなく、物まで調べることができる“アナライズ”を持つ俺には、書物はもちろん剣などの武器ぐらいの鑑定は難しくなかった。

それに確実ではないが、マジックアイテムの鑑定も可能だ。たぶん。


書物は全部紐で結ばれた古びていて、10冊ほど用意されて中身は歴史にも残る古き魔法使いが残した、記述書と書かれている。


なんだが、うん。


「これは……ニセモノですね」

「そ、そんなぁぁぁぁ……!? た、確かなのか?」

「うんーーこれ、紙の見たい目は古そうだけど、せいぜい1〜2年程度ですよ。それに書いた人物も筆跡の感じも新しいことから、本の主とは別人だと思いますし。それ以前にこの書いてある魔法陣の式とかですが…………よく目にする基礎魔法陣の式を書き換えただけに見えます」


魔法には縁のない素人だが、実は知識はそれなりにある。


得た知識のそのすべてを貯蔵するスキル────“ライブラリー”

そしてこれも“アナライズ”と“メモリー・パス”の応用だが、情報知識と照らし合わせることで素質のないおれでも、魔法陣が正確かどうかある程度の判断をすることは可能だ。


まぁでもすべて確実とは言いづらい。

複雑な物や見たこともない知識のないタイプだと、まず理解しないといけないから、スキルを使ってもその辺りは大変なんだ。


それで今回用意された物については、まず間違いなくニセモノであるということが、俺の答えであった。


書かれている魔法式や文は、いかにもそれっぽい感があるが、所々にそのまま書き写したような怪しい点が沢山ある。

あり過ぎて暗号の可能性も考えたが、さすがにそれは深読みであった。

お客さんには悪いが、どっからどう見てもニセモノですなこれは。


「ま、万が一の……」

「可能性もないかと? なんなら他の鑑定士とは言わなくても信用できる魔法使いにでも見て貰えればハッキリしますよ?」

「う、ぐぅぅぅぅ」


で、俺の大変根拠のない申し訳ない説明を聞いても、とくに強く疑うこともなく項垂れる客人の男性。

店や俺の技術をそこそこ信用している人だから、これは駄目なんだなと理解してしまうのだろう。


「まぁ、基礎教科書だとでも思えば、少しは値はあると思いますが?」

「ううう……じゃあそれで予約してもいいかな? 一応知り合いの魔法使いに尋ねてみるから」

「毎度です」


そうしてガクリと落ち込んでしまったお客さんは、念の為に確認をしておきたいと資料をまとめて、ショックな様子なままをお店を出ていった。


ご利用ありがとうございました。





「アリサさん、この商品どこにしまっておきます?」

「んーそうね。とりあえず中もチャックして2階に上げておきましょう。検品をよろしく」

「了解です」


いつもようにアリサさんとのお店での日常。

今日もまぁまぁ朝早くから人が来て、しばらく午前の時間帯で一番人が来ない時間になったので現在整理中であった。


アリサさんが売れた物や買い取った物のリストをまとめている中、俺は品の整理や買い取った物の調整に入る。

1階にある自身の席に座るとテーブルに置いてある物に触れて、読み取りで“アナライズ”をかける。


実際この工程は色々と種類があるが、基本は調整と呼び品の修理や掃除を行うことだ。


「え〜〜と、まずこれは小型の時計で、中の針の部分のネジが止まってるから……」


荷物の整理は割とすぐに終わるが、品の調整は少しばかり大変。

用意したのは小型の懐中時計で針が動かず、古いからと売られた物だが、中々の時計職人さんが造った物ようなので買い取らせて頂いた。


一応その時に少しばかり酷い状態なのは分かっていたが、中身を見てみて改めて溜息をついた。


「うげ、結構ネジがちっさ。……ここは小さめのペンチとピンセットで」


蓋を開けて中身を見たところ、まず置いてある工具道具箱から道具をいくつか取り出して、作業に取り掛かる。

物によって簡単なのもあるが、俺は家具職人や加工技師など生産者じゃないからやれることは限られる。


が、やれることもある。

まぁこれも経験の成果ということで慌てず騒がず、細かな構造をした時計の内部に触れていった。


「はぁ……どうにかなった」


そうして数分後には、手元では先程まで止まっていた時計が息を吹き返したようにカチカチとしっかりと動いている。

少し不安はあったが、もう何度もこういった物を扱ってきた。

それに適したスキルもあるので泣けそうな不慮の失敗最悪の展開だけなんとか避けれるのだ。……ヘタに壊してアリサさんに迷惑かけるのは勘弁したい。


「ふぅーー」

「相変わらず真面目で手際がいいわね。……普段はあんなに捻くれててスケベなのに(実害レベルの)」

「あのーー? 俺だって一応店員なんですよ(平だけど)? あとそんなにセクハラしてましたっけ?」


上手く部品の交換を終えて蓋をしてしまう俺の後ろで、商品のリストの確認を終えたアリサさんが感心したような、呆れたような声音と表情で声をかけてきた。


「自覚がない────というか逃避? まぁいいけど、その鑑定スキルと器用さは私以上だし、お陰で仕事の種類が追加できてお客も増えた。店としてはありがたい限りだわ」

「なるほど、下げて上げる派、というわけですねアリサさん」

「なにも分かってない。器用なの認めるけど、変態性はまったく認めてないから」


けどうんうん。やっぱり美人に褒めれるのは最高ですわ。

……なにか言っている気がするが。

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