第42話 あれは人工呼吸?それとも接吻?〇〇に3000点!

 「おま……」


 驚いてしまった真白ではあるが、恵が目を開けて声を出した事に安堵を覚えた。


 「よ、良かった。あのまま意識戻らなかったらどうなるかと思った。」

 真白は脱力して一回り小さくなったように気を抜いた。


 その言葉で恵も理解したのか、口づけの事に関しては何も言わなかった。

 あくまで今はかも知れないけれど。


 ライフセーバーに案内され念のため救護室へと案内される。

 立てるから歩けるからと恵は担架を拒否したけど、少しふらつくからか真白の肩にダイブしてしまった。


 「じゃぁしょうがないからこうするか。」

 真白は何を思ったか、体育祭の再現……お姫様抱っこを試みた。

 途端に野次馬からひゅーひゅーと口笛の嵐が吹き荒れる。

 


 「ばっ、ちょ、公衆の面前でそんにゃ恥ずかしい事はやめろ。」 

 一部言葉がおかしいけれど、テンパった恵の平常運転でもあった。


 「わかった。わかったから、担架で良いから。降ろせーじゃなかった。くっ……ころせ。」

 

 大衆に見守られながら恵は担架に乗って運ばれていった。

 真白はそれに隣接するように救護室まで付いて行った。




☆ ☆ ☆


 「なんだか、危なかったけどあの二人ヤっちゃったね。」


 「そうだね。人命救助とはいえヤっちゃったね。というか恵……最初から意識あったでしょ。あれ、多分引くに引けないから受け入れたように思える。」

 七虹の分析は見事である。

 実のところ、恵は意識があった。浮き輪を外す時も、背負ってプールサイドに運ばれる時も、寝かされた時も、軌道確保された時も、胸に手を置かれた時も、唇を重ねられた時も。


 ただ、朦朧とはしていたので夢の中と勘違いしている感覚ではあったのだろう。

 すぐに目を開けていればそこまでの事はされていなかったのだろうけど。


 真白の行動が思いの外素早く行動的であったために、恵も流れに身を任せていたといったところだった。


 「果たして恵がアレを人工呼吸と取るかキスと受け取るか……」

 澪の言葉に七虹は考える。ヤンキーのくせに色恋には縁遠く、本人も純情なためにこれまで浮いた話の一つもなかった。

 見た目は良いのだから異性が寄ってこない事もないのだけれど、それは10歳くらいまでの話。

 中学ではもうヤンキーまっしぐらだったので寄ってくるのは同性の同じようなヤンチャな人が多かった。


 「言い出しっぺの私から。ヘタレた柊君の説明に納得して人工呼吸という事になるに、はら〇いら3000点。」


 「じゃぁ大穴、責任取れよと恵に言及されてそのまま突きあっちゃうに竹下〇子3000点」


 恵の謂わば親友二人の失礼な会話は本人達は知る由もなく、この掛けのような会話は二人だけの乙女会議として封印された。



☆ ☆ ☆



 救護室で簡単な質疑応答と診察をされて解放される恵と真白。

 特に異常はなしと判断された。



 「な、なぁ真白……」

 もじもじとしながら恵が問いかける。

 その様子は言われなければ彼女がヤンキーだったなんて誰も気付く事はない。


 「な、なんだ?」

 返答をする真白もどこかぎこちがない。


 「さっきのはカウントされるのか?」

 口づけに関する事なのだが、はっきりと言えない恵。

 唇を前に出したり引っ込めたりと忙しなかった。


 「あー、その。なんだ。人命優先だからな。考えるよりも先に身体が動いてたというか。」


 「そうか……」

 少し残念そうにうつむく恵。真白もその様子を見ていた。


 第三者が見ていたらまどろっこしいその様子を、ライフセーバーの女性は見ていた。


 「でも流石は。あんなに迅速に的確に行動出来る人はそうはいませんよ。」



 ライフセーバーの彼女の助け舟はいらぬおせっかいではあった。

 その証拠に真白と恵は互いに時が止まったかのように動く事が出来なくなっていた。


 「それでは私は仕事に戻りますので。落ち着いたら楽しんでください。」


 それはどういう楽しみだと二人は動かぬ身体で考えていたが、動き出せるまで悶々と考えていた。



☆ ☆ ☆



 「まだ泳ぐか?」


 真白が恵に問いかける。恵は地面を見ながら考えていた。


 (あれは接吻だ。間違いなく接吻だ。一回目は人工呼吸だったけど。二度目のは違う。何か空気以外のモノがあたしの舌に触れた。)

 

 「恵?」

 返事のない事にしびれを切らしたのか、真白が再度問いかけていた。


 「ひゃいっ。」

 これまでにない甲高い声が真白の耳に届く。


 「おぉ、随分と可愛い声で返すな……それでまだ泳ぐか?」


 「か、かわっ……あ、ぁあ。あと一回フォールしにいきたい、かな。」


 (な、なぜかまた抱き留められながらフリーフォールを滑りたいと思ってしまった。さっきので真白のかなり男らしさを感じて、あたしの中の何かが真白成分を欲している……とは言えない。)



 「そっか。じゃあまた並びに行くか。」

 真白の言葉は同性の友人にするような気楽に気兼ねのない言い方だった。

 良く言えば変に着飾らない素直で率直な言葉であるのだが。


 言い方をさらに変えれば、そこら辺にいるカップルのような彼氏が彼女に言うような言い方でもあった。


 

―――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 プール回は次で終わりです。

 七虹と澪の3000点の掛けはまだ継続中のようです。


 作者自身忘れかけそうなネタでありますが、学校の伝説に沿ってくれないと第一話が意味を成さなくなってしまうので。



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