ヤンキー女子は純情可憐Ｒ

第３２話 終盤戦、真白は〇〇打法がお好き

　７回のマウンドに上がる山田は一皮剥けていた。

　初回の山田が戻ってきたと言うべきか。

　投球練習の球にはキレと球威が戻っていた。

　ズバーーーーンとミットに収まる時の音は綺麗に響いていた。

　「さぁ、しまってこーーーー」

　「おーーーーーー！！」

　ズバーーーーン

　ズバーーーーン

　ズバーーーーン

　三者三振で６番からの３人を抑えた。

　このまま完投しても良いのではという程の出来だった。

　「ナイスピッチング！！」

　戻ってくる時に野手陣が山田の尻や背中をパンパンとグラブ越しにはたいていた。

　７回裏の攻撃に入る際、真白がグローブを置くためにベンチに入ると……

　スパーーーンとハリセンで真白は恵に叩かれた。

　「な、なんだこの暴力女ッ。俺が何をした。」

　「自分の胸さッ聞いてみろっ」

　「チ〇が匿名希望選手で天下一武闘会で悟空さに言ったセリフだな。」

　先程初セリフの轟が昔のネタを振った。

　「漫才は後にしてバッターボックス行けよ。」

　小川が正論を振りかざした。確かに早く行かないと主審に呼ばれてしまう。　

　「バックスクリーンのスコアボードが呼んでるぞ。」

　八百が真白に向かって煽っている。

　（打てるものなら打ってるさ。結構キレてるし重いんだよあの球。）

　真白は相手投手の評価を高くしている。左右の差はあるけど３回戦の浦学の金田と同等だと思ってる。

　（相手も初出場まであと少しとどこかに隙が出来ていれば付け入れる事も出来るのだろうけど。）

　真白はバッターボックスに立つとバットの先端をバックスクリーンの方へ向けてから下側へ回転させてから構える。

　そのフォームは落合と清原を足したようなものだ。ただしバットは立たせている。

　足はややオープンスタンスに近い。初期の上本博紀とも言うかも知れない。

　初球……ズバンッとキャッチャーミットに収まりはしたが……

　「テメー顔面狙いやがったなーーーケンカならあたしが受けけけけ……」

　ベンチから鬼神・恵が何か怒声を浴びせていたが部員とマネージャーに身体ごと押さえられていた。

　（何やってんだか。すっぽ抜けたボールが顔面の近くにきただけじゃないか。）

　真白は淡々と思っているだけだが、実際硬球が顔面に当たったら頬骨骨折とかでは済まないかも知れない。

　身体を後ろに逸らす事で簡単に避けたように見えるが、本来は避けるのが難しいし次の球が怖く感じてしまう事もある。

　「うちの鬼姫が申し訳ないな。悪気はないんだ。膝を何度も叩いていると足が勝手に動くようなものだ。あの言葉は多分反射的に出てきただけだ。」

　真白は相手の保守に向かって、恵の言動に対する謝罪を伝えた。

　「いや、元はすっぽ抜けたとはいえこちらの投球が問題だったんだし良いさ。」

　相手の捕手はさらっと返した。

　「あれな、緊張を解す妙な魔法の言葉なんだよ。結果的にはだけど。浦学の金田を打った時もそうだ。」

　それは今ので俺の緊張は解けて身体はリラックスしたぞという事なのだが、捕手はそこに気付いたかどうか。

　２球目、外角低めにスライダーが投じられるが真白はボールが指から離れる前から見送る事を決めていた。

　判定はボールだが、最初から真白は外れる事がわかっていたかのような見逃し方だった。

　３球目、内角高目にストレートが外れ３－０と打者有利なカウントになる。

　先程の真白の言葉で何か警戒をしたのかストライクゾーンにボールが来ない。

　四球を出して次以降の打者を抑える方が得策と取ったのか、狙っていたけど外れただけなのか。

　真白が単純に手を出さなかったのか。

　４球目、真ん中低めにストレート。真白は様子見のためか、見逃したが判定はストライク。

　「ストライッゥクゥ！」

　主審のコールが響いた。

　（さて、勝負のボールだな。読みだけで打てたら投手と捕手は首位打者だよ。まったく。）

　５球目、外角のカットボールをカットした。ボールは１塁ベンチに水切りで跳ねていく石のように飛んで行った。

　「テメー真白っあたしを殺す気かーーーーーっ」

　（ん？あいつ人の事苗字ではなく名前で呼びやがった。）

　「いや、本当にウチの鬼姫は口が悪い。」

　「元ヤンかい？」

　捕手の彼が話掛けてきた。

　「いや、現役だな。」　

　真白は素直に返答した。

　「ここで三振しようものなら釘バットでケツバット喰らいそうだ。」

　「それは怖い怖い。でも簡単に打たせたりはしないぜ。」

　６球目、７球目はそれぞれスライダー、フォークと絶妙な所に投じられたがカットした。

　「結局フルカウントか。」

　グリップを握る手に力が入る。

　８球目、９球目もストレート、カーブとタイミングをずらされながらもカットし粘る。

　ストレートの球速は１５１ｋｍ／ｈを記録している。

　ここにきてまだまだこれだけのボールを放れるのは大したものだと真白は関心している。

　球数は既に１２０球を超えている。男の意地と意地のぶつかり合い。

　お茶の間の皆様は手に汗握って見ていることだろう。

　そしてブラスバンドが現在演奏するのは「徒花ネクロマンシー」だった。

　（おっはよーございまーす打法か）

　追い込まれても１本打ちたい、いいえ、バッターアウトにならなければ叶えられる。

　これは背水？それとも期待？多様な変化球乗り越えて失投がなくても来た球を打つだけ。

　それが俺のサガだから！！

　１０球目、コースは真ん中、際どい高目の真っ直ぐが向かってくる。

　真っ直ぐと思わせておいてバッターボックス手前で落下を始める。

　（勝った。今の俺は海〇高校の須永が宿ってる。）

　落ち始めのボールはど真ん中付近でベース上を通過しようと軌道を変える。

　カキーーーーーーン！と真白がスイングをすると真芯を捉え……

　その軌道は綺麗な放物線を描きセンター方向へ。

　身体を反転させてセンターはボールの行方を追って行ったが途中で諦めた。

　自分の頭上を越えた打球を見ると、捕球出来ない事を悟ったからだ。

　ドンっとスコアボードに当たる音をセンターは聞いた。

　ちょうど７回裏の桜高校のボードに当たった。

　それは超特大ホームランと言って良いものだった。

　推定飛距離１２０ｍは超えている。

　「よっしゃーーーーーナイスバッティンーーーーーグ！！」

　ベンチから一番元気良く声をあげたのは鬼姫種田恵。

　ハリセンをベンチの背もたれにバンバン当てて喜んでいる。

　（秋山幸二みたいにバク転でホームに触れたら目立つだろうけど顰蹙は買うだろうな。やめとこ。）

　ネクストバッターズサークルから出てきた安堂とハイタッチをし、ベンチに戻ってから全員ともハイタッチをする真白。

　「よーし、あと１点大事に取りにいこー」

　スタンドから応援の声が投げかけられる。

　しかし打たれた事で気を引き締められたのか、村山は後続の打者を三者凡退で切って落とした。

　８回は９番から、打順としては悪くない。

　そして８回のマウンドには７番ピッチャー卯月がコールされ上がっていた。

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　後書きです。

　真白の打撃を美化するために長くなってしまったので一旦ここで切ります。

　試合としては４－５と見ていて面白いスコアにはなってると思います。