第九話 ついに戦いは始まる!!

 開けた場所に辿り着くと、観客席に詰め掛けたお客さんに囲まれ、さらに怒号にも近いその歓声が僕達を迎えてくれた。


 正直いうとちょっと怖い。それ程異様な雰囲気を感じたんだ。特に、僕の隣にいるヴイさんへの罵倒は、悲しくなってくる程だった。


「それでは帝国民のみなさま、大変長らくお待たせいたしました。これより、『双闘大会』を開催いたします!!」


 いきなりの大音量でびっくりさせられた! どうやったらあんなに大声で話せるのだろうか? 『魔法』かな? 特異魔法ならありえるけど、どうなんだろ?


 そんな事を考えながらも司会者がどんどんと進行していく。


 今回、『双闘大会』に出場しているのは八組、十六名。そのうち、二組が既に知ってる通り、僕達とクリサンちゃん、セアムちゃんだ。あとの六組は、どこかしらの推薦があって出場している強者、との事だ。さっきみたいに、あっさりとやられかけている人達もいたが、あれは単純にあの二人が強いだけで、決してあの二人が弱かった訳じゃないと思う。おそらくだけど。


 そして対戦方法はトーナメント方式で、対戦相手はこれからくじ引きをして決めるらしい。いきなりクリサンちゃんとセアムちゃんに当たったらどうしようか。いやいや、すぐに当たるとは限らない。それに他の出場者も強そうだ。屈強そうな人に、綺麗な女性もいるな。あそこの人は上下が一緒になってる青い服着てる。変わった服装だなぁ……、ってアベさんじゃん。何でギルドマスターがこんなところにいるの?


 向こうもこっちに気付いたようでこちらに近づいてくる。


「おう、驚いたか? 俺も出場するんだ。よろしく頼むな。特にそっちのお兄ちゃんはよろしく頼むぜ!」


 既に獲物を狙う目つきになっている。臨戦態勢に近い。ただ、殺気とは違う、なんて気といえばいいのか。ヴイさんが思わず、後ずさりしてしまっている。本当は下がっちゃいけないのかもしれないけど、今は正しいと思う。出来るなら逃げるべきだ。ナニかが危ない。


「ガウ。義兄上、こいつ、怖い。絶対、危ない!!」


 やはり本能レベルでアベさんが危険である事に気付いたようだ。


「大丈夫だ。最初は誰だって怖いけどな、その内、癖になるさ」


 癖になりたくないんだけど。このまま話し続けるかと思いきや、急に、パートナーのところに戻っていった。勿論、その人も上下が一緒の青い服を着ていた。あの人が噂の『蒼菊』のメンバーさんかな?? まぁ向こうへ行ってしまったし、そこまで重要でもないからいいか。


 そんな事をしてる間に、気が付いたら皇帝陛下の話に移っていた。だから戻ったのか。無駄話なんてしてたら首が飛んじゃうもんね……。


 ふとヴイさんの方を見ると、全身の毛が逆立ち、今にも飛び掛かりそうになっていた。


「ヴイさん、ここは抑えてください。あと少しですから」


 こちらを見て、漸く落ち着くヴイさん。気持ちはわかる。そりゃ憎いよね……。


「ガウ。義兄上、ありがとう。もう、大丈夫」


 その様子を見ていたのか、皇帝陛下がこちらを見ていた。結構距離は離れていたけど、こちらの変化に気付いているようだ。


「愛する帝国民のみなよ、よくぞ来てくれた。そして歴戦の勇士達よ、若干異物も混じっておるが、よくぞ参った。『双闘大会』を大いに盛り上げよ。そしてわが子を倒し、褒美を受け取ってみせよ。さてさて、ここであまり長話をしても興が冷めるであろう。それでは、『双闘大会』を開催する事をここに宣言する!!」


 宣言とともに今日一番の盛り上がりを見せた。だけど、僕は素直に盛り上がる事は出来ない。言葉の棘がチクリチクリと刺さってくる。けど、そんな事に負けていられない。この棘を無くす為に、今日があるんだから。


 宣言が終わると、そしてここからはくじ引きをし、そのまま試合も始まる。試合は一日、一試合が行われ、合計四回勝てば優勝だ。そして運命のくじ引きだったけど、なんとかアベさんとは準決勝、双子とは決勝で戦う予定だ。それは勿論、お互いが勝ち進んだらって話だけどね。けど、気配で見ても、この二組より、強そうな気配は感じられない。まぁ実際は、気配をうまく隠している人もいるから必ずそうとも限らないけど……。


 無事、くじ引きも終わったので控室に戻される。ちなみに僕達は今日の最終試合だ。既に第一試合の人達は先程集まった場所で戦い始めているだろう。ここまで歓声が聴こえてくるからね。


 そして順調に試合は進んでいく。アベさんと双子は勿論勝ち進んでいる。そして次は僕達の番だ。


「それでは、本日の最終試合を始めます。両組、前へ!!」


 ついに始まってしまった。罵声交じりの声援に包まれて前へと踏み出す。そして初日の相手は……。


「おう、一回戦からお前たちとはな。さっきの恨み、ここで恨み、晴らさせてもらうぜ」


「肩が上がらなそうだけど、大丈夫ですか?」


 まさかの先程絡まれた男達である。肩の事を心配していってあげたのに顔を真っ赤にさせている。なんでだろう? まぁ相手の事を心配していても仕方ないよね。


 もう、言葉は必要ないだろう。お互いに構えを取る。


「それでははじめ!!」


 ついに戦いは始まる!!

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