第2話:売春婦の系譜

 この世界の父となっているライエン公爵ヘリドスと、後妻に入ったラナディア、その間に生まれたとされている妹のリナビアナ。

 でも私は、リナビアナはヘリドス子供ではないと思っている。

 あの頃のラナディアは自分を騙したヘリドスに内心激怒していた。

 庶民と不義密通してヘリドスとは違う種の子を宿し、その子をライエン公爵の後継者とする事で復讐しようとしていた。


 私が王太子の婚約者で、殺すことができないと知るまでの、愚かな考えだった。

 その後はヘリドスに頼らず豊かに暮らすために、貴族に狙いを定めて誘惑していたが、売春婦としての才能はあったので、結構貴族に貢がせていたようだ。

 だがそれも直ぐにできなくなって、困窮するようになる。

 ラナディアは馬鹿だから、上手に隠れて不義密通ができないのだ。


 庶民が相手の時は、男の方が命懸けだから、必死で隠してくれた。

 だが相手が、愛人がいて普通の貴族だと話が変わってくる。

 貴族は、誰が愛人で、誰と一夜の恋を語らったかを隠さない。

 隠さないどころか、それを公表する事で、誰と誰がつながっているかを表明する。

 時に秘密の情報を得ているという謎かけをして、交渉を有利にしようとする。


 当然の事だが、ラナディアが政略もなしに毎日のように不義密通を重ねている事が、社交界で評判となり、ヘリドスの耳に入る。

 ヘリドスは馬鹿で女好きでどうしようもない男の上に、独占欲が強いのだ。

 怒り狂ってラナディアを責め、二度と浮気ができないように貞操帯でがんじがらめにするという暴挙に出た。

 ヘリドスも公爵なら、ラナディアを使って金と情報を手に入れて、公爵家を再建すべきなのだが、本当にどうしようもない愚か者だ。


「マリアンヌお嬢様、リナビアナ様でございますが、どうやら妊娠されたようでございます」


 いよいよ待ちに待った決行の時が来たようです。

 ラナディアと名も知らない庶民の間に生まれたリナビアナは、母親のラナディアの才能を受け継いだのか、天性の売春婦のようです。

 上手に金持ちの男に近づき、身体を使って金品を手に入れるのです。

 最初に男を誑かしたのは十三歳の時でしたから、流石に少々驚きました。

 ですが、頭もラナディア譲りのようで、情報を手に入れ活用し、莫大な富を手に入れる事はできないようです。


「王太子の子供ですか、それともアノウェル辺境伯ジント卿の子供ですか?

 まさかとは思いますが、ダンセイニ男爵家のアルフィの子供という事はありませんよね?」


 本気で、この国の王妃になりたいと思うのなら、王太子に近づけた時点で、今まで身体の関係のあった男達とは関係を絶たなければいけません。

 殺して口を封じるのが一番ですが、あまりに数が多くて不可能でしょうから、王妃になった時に利を与えると約束して、黙らせるしかありません。

 ですがリナビアナは愚かにも、王太子と同時進行で他の貴族と肉体関係を持ち続けています。


 愛する者と繋がったまま、王太子の妃となり王家を滅ぼし簒奪するなら、それなりの実力者でなければいけません。

 アノウェル辺境伯ジント卿ならば、その力はあるでしょう。

 ですが、単に女あしらいが上手なだけで、力も金もないダンセイニ男爵家のアルフィと関係を続ける意味が全く分かりません。

 リナビアナはいったい何を考えているのでしょうか?

 何かとんでもない裏や黒幕がいるのでしょうか?

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