魔法世界に転生しましたが、なにも変わりませんでした。 ~もしも、魔法使いになれたなら~
ベッセルク
プロローグ 死因はトラックが一番!
もしも魔法が使えたら、なんて考えていた時期が僕にもありました。
当然ですが、実際は使えませんでした。今はしこしことオフィスワークにいそしむ、しがなく、どうでもいいサラリーマンをやっています。人もまばらな、夜10時のオフィスでせっせと書類作成。毎日毎日残業してるのが当たり前だと、少し嫌にもなってくる。今の仕事が片付いたら今度は新人教育の資料作り。人手不足だからって、2年目の僕がやるかねえ……
「少しはましになったかい? それとも変わらないかい?」
なんとなく歌を口ずさむ。気分転換にちょうどいい。
「先輩、ご機嫌ですね」
「いや、逆だよ……」
後輩の城間ちゃんに向かって苦笑した。僕の仕事を手伝おうとしてくれる、中々健気な子だ。更に可愛い。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「え、まだこれだけありますけどいいんですか」
そう言って僕のデスクにある、事務書類の山を指さす。呆れ笑いを浮かべながら僕は山をつつく。
「全部やったら丸3日はかかっちゃうよ。今日はやめやめ」
立ち上がって2人でビルの出口まで歩き、挨拶をして別れた。
「いい子なんだけどな…… そうだよなあ……」
別れてすぐ、ため息を漏らす。あんな献身的で顔立ちも整った子に、気がないわけがなかった。だが世の常として、そういう子は誰かがマーキング済みなのだ。たまたまちらっと見たことがあるのだがが、如何にもイケメン優等生といった感じの彼氏だった。大学2年からの付き合いらしい。
「ああそうさ、そりゃそうさ!」
誰か僕に、残業代以外の報酬をくれ。切にそう思うのだった。なんというか、ひでえ気分だった。紛らわすように別のことを考える。
「なんだっけ? トラックに轢かれて、いい感じの世界に行くみたいな奴……? あれだよ、あれ」
とはいえ、あれが僕の求めるものと言われてもなにか違うような。そんなことでうんうん唸っているうちに死神か、もしくは天使がやってきた。
「あ、トラックが向かってくる…… マジでいけるのかな」
車線を無視して、まっすぐ向かってくる。思ったよりこの世は都合よく出来ているらしい。しかし、僕も疲れているようだ。命の危機というのにまるで体が反応しない。結構やられてたんだなあ、とぼーっと考えていたらすぐそこまで迫っていた。
「あべっ!」
思い切り倒れた。視界が血で覆われていく中見たのは壊れたノートPCだった。どうも、誰かがブチ切れて窓から投げ捨てたらしい。だよな、辛いもんな……
「なんだよ、これじゃいい感じの世界に行けないじゃん……」
残念ながら死因がトラックではないので、僕はここでも外れくじを引いたらしい。そのことだけが、死の間際における唯一の心残りだった。
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