第160話 アイセル&サクラSIDE(2)
「え、あ、うん……まぁほどほどにね? でないとケイスケが一生懸命アイセルさんの名前を売るためにやってきたことが、下手したら全部無駄になっちゃうから……」
サクラは言動こそ子供っぽいし、特にケースケに対しては完全に心を許しているからか、かなり甘えた言動を取ることが多い。
しかしいいところのお嬢さまだけあって幼いころより高度な教育を受けているため、サクラは割と空気が読めた。
パーティの先輩であり尊敬する絶対エースでもあるアイセルの面目を保ちつつも、何でも言える仲良しケースケの努力も無駄にならないようにと、サクラはとても卒のない返事をしたのだが――。
「いいえ、わたしは真実をのみ書き記します。それでわたしの名声がどうなろうとも構いません」
「いや、あの、だからケイスケの今までの努力を……」
「世界の中心たる太陽のごときケースケ様の偉大さを後世に書き残すことができなければ、わたしは死んでも死に切れないでしょう」
「そこまでいくともう宗教みたいでちょっと怖いんだけど……」
ケースケに対するアイセルの恋焦がれてやまない情熱的な想いの前では、空気が読めるサクラであってもドン引きを隠しきれなかった。
さっきからどうにも顔が引きつり気味のサクラである。
しかしケースケのことで頭も心もいっぱいなアイセルは、サクラの気持ちなんて知ったこっちゃなかった。
「宗教……はっ! そうですよ! それですよ! 実にいいアイデアですよ、それは!」
「ええっと、それって、どれ? なにがいいアイデアなの?」
「だから宗教ですよ宗教! ケースケ様教を作ればいいんです!」
ついにとんでもないことを言い始めた。
「…………はい?」
ここに来て、サクラはついにアイセルの話についていけなくなっていた。
「そうですよ、ケースケ様の素晴らしさを余すところなく伝えるための団体を作れば良かったんです」
「あ、アイセルさん……? なにを言って……」
「ああもう、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんでしょうか。まったく、まだまだわたしもケースケ様への愛が足りないということなのでしょうね。帰ったら反省会をしないと」
「あはは、冗談……だよね?」
「もうサクラってば、わたしはケースケ様絡みで冗談なんか言いませんよ。わたしはいついかなる時だってケースケ様に全力で本気なんですから」
「あ、うん……そうだよね……アイセルさんはいつもケイスケに本気だよね……でも時々本気すぎるっていうか……もう少し落ちついても罰は当たらないんじゃないかなって……」
「もうこんな時に落ちついてはいられませんよ。ではサクラ、すみませんがわたしは色々と考えることができてしまいましたので、今日のところはお先に失礼しますね。ではまた」
「あ、うん……ばいばい……」
ケースケ教団を作るという新たなる使命に燃えるアイセルを、サクラは言葉少なに見送るしかできなかった。
ちなみにアイセルのこの壮大な野望は、事態を大変憂慮したサクラによって秘密裏にケースケへと伝えられ、ケースケがアイセルに止めてもらうよう必死にお願いをすることでどうにか事なきを得たのだった。
今日もパーティ『アルケイン』は平和なオフを過ごしていた。
~幕間終了~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます