第143話 古の盟約

「いえ、さっき2000ゴールドで買わされた中古の――」


 ジロッ!

 ウンディーネがにらんできたので俺は言い直しました。


「――こほん、落としたのは普通の斧です」


『あなたはとても正直者ですね。では正直者のあなたにはこの金の斧を差し上げましょう』


「え、ああ、はい、ありがとうございます?」


 俺は中古の斧を失って、金ぴかの斧をゲットした!

 もしかして本物の金でできてたり!?

 そうだったらラッキー!


『はい、これで古の盟約の契約更新は完了よ、お疲れさん!』

 ウンディーネが完全に素に戻った口調で言った。


「えっと、なんだったんだ今のロールプレイングは?」


『これはね、ちょっと前に木こりが泉に斧を落としたんだけど、さっきと同じ質問をされて『いや俺が落としたのは普通の斧だ』って正直に答えたの。それにいたく感激した私は、木こりに金の斧と精霊の加護を授けたわけ』


「あ、それ聞いたことあるかも。たしかその木こりは一国の王になるのよね。南部諸国連合のどこかの国のルーツがそんなだったような……」

 古代研究が専門なシャーリーが、手のひらを軽くポンと合わせて言った。


 ちなみに精霊の言うちょっと前とは、たいがい人間にとっては超がつく大昔である。

 念のため。

 このウンディーネもうら若き乙女の姿ではあるが、おそらく何百年――下手したら1000年以上生きているはずだ。


「そうそう。そして王となった木こりは、私に感謝を伝えに毎年会いに来るようになった――っていう、いと素晴らしき伝説を再現したものなのよ』


「つまりそれを再現することで、盟約の更新の儀式としているわけだな?」


『そーゆーこと、あなた人間のくせになかなか頭の回転が速いじゃない。私は頭のいい人間は嫌いじゃないわよ』


 それにしても、古の盟約の更新ってそんなに長いこと続いてるんだな。

 チラッとアイセルを見ると、太古のロマンを感じている様子で目をキラキラと輝かせていた。


「そりゃどうも、最高位の精霊にお褒めいただいて俺も光栄だよ。更新については分かったよ。だけど、じゃあなんでこんなことをしたんだ?」


『こんなことって?』


「ドリアードやウッドゴーレムを使って、ここに近づけないようにしていただろ? 盟約の更新ができないからみんな困ってたんだぞ?」


『ああそれね。実は話せば長いんだけど――」


「手短にね!」


「おいこらサクラ、こんなんでも長き時を生きる最高位の水の精霊なんだから、もうちょっと敬意を払おうな?」


『こんなんでも、とか言うあんたもたいがい失礼だっつーの!』


 しまった、つい本音がポロっと口から滑って転がり出てしまった。


「悪かった。どうやら偉大な精霊のあまりに神々しい姿を見せられて、俺は少し動揺と混乱をしているみたいだ」


 俺がこの場を取りなすために露骨なおべっかを使うと、


『あ、そういうことね。やれやれ、ただ存在するだけで相手の心を千々ちぢにかき乱してしまうだなんて、さすが私。オーラからして並の精霊とは違うもんね』


 ウンディーネはとても素直に信じてくれて、事なきを得たのだった。

 この子はとても素直な子みたいだね。


 そういやエネルギー生命体である精霊は、存在が薄くなってしまうから嘘を付きにくいってドリアードが言ってたっけか。


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