第142話 邂逅、ウンディーネ

『我が名はウンディーネ、この泉を守護する偉大なる水の精霊なり。無知蒙昧なる人間とエルフよ、古の盟約に基づきよくぞここまでたどりついた』


 どうだ見たかと言わんばかりにこれでもかとキラキラと光り輝く泉に、無駄に神々しく現れた水の精霊ウンディーネが、やたらと偉そうに上から目線な感じで言った。


 この人知を超えた神々しい姿を出会い頭に見せつけられれば、普通ならハハァ!とひれ伏したくなることは間違いないだろう。

 それほどまでに神秘的なウンディーネのキラキラ登場シーン。


 しかし俺たちは道中でドリアードから、


『ウンディーネは悪い子じゃないんだけどぉ、ちょっと有名な精霊だからって上から目線で偉そうで、見栄っ張りで自己中で、我が強くて態度がデカくて、自意識過剰で自分が世界で一番可愛いと思ってて、私たちをまるで召使いみたいにあごで使ってくるのよね。これって酷くない? 私だってかなりの上位精霊だっていうのにさ』


「お、おう……」


 と散々愚痴を聞かされていたので、そんな気持ちには微塵もならなかったのだった。

 この過剰な『演出』についてもドリアードから情報を入手済みだったし。


 俺は淡々と事務的に、ウンディーネに要件を告げる。


「初めまして『泉の精霊』ウンディーネ。俺はケースケ=ホンダム。このパーティ『アルケイン』のリーダーだ。今日は人間が大昔にウンディーネと結んだ古の盟約を更新するためにやってきたんだ」


 早速用件を切り出すと、ウンディーネは派手派手登場シーンがスルーされたからか、ちょっと不満そうにほっぺを膨らませながら言った。


『むぅ……えらくドライな対応ね。分かったわ、契約の儀式を行うから、そこに斧があるでしょ。それを買って泉に投げ入れてちょうだい』


 そう言うとウンディーネはいったん泉の中に引っ込んだ。

 泉もキラキラしなくなって、元の静かな状態に戻っている。


 俺がウンディーネの指さした先を見ると「1個2000ゴールド」と書かれた値札の貼られた、見るからに安そうな中古の斧が数本、木に立てかけて置いてあった。


 え、なに?

 お金とるの……?

 しかもこの古そうな斧に2000ゴールドも?


 いや斧としては別に高くはないんだろうけど、特に必要ない中古の斧に2000ゴールド払わされるのはちょっと嫌だなぁ……っていうか重くて邪魔だし。


 もちろん口にも顔にも出さなかった。

 俺もいい加減いい大人なので。


「ええっ、なによ! お金とるの!? しかもこの古そうなボロい斧に2000ゴールドも!?」


 しかしサクラが馬鹿正直に言ってしまった。

 ほんと正直だな、お前は。

 でも今だけは空気を読んで欲しかったぞ。


『はぁ!? ケチなこと言って難癖つけてないで、とっとと儀式を進行しなさいよね! これは最高位の精霊との古の盟約の更新なのよ!』


 案の定、ウンディーネが泉から顔だけ出してワーワーと抗議の声をあげてくる――俺に向かって。


「すみませんでした、以後気をつけます」


 俺はやや不本意ながらリーダーとしてサクラの代わりに謝罪した。

 そして木にくくりつけられた貯金箱みたいな入れ物に2000ゴールドを入れると、斧を一本手に取った。


 それを言われた通りにドブンと泉へと投げ入れる。


 すると、


『我が名はウンディーネ、この泉を守護する偉大なる水の精霊なり。無知蒙昧なる人間よ、あなたが落としたのはこの金の斧ですか、それともこの銀の斧ですか?』


 再び眩しいくらいにキラキラ輝き出した泉に、同じように神々しく現れたウンディーネが、だけど今度は両手に金と銀の斧を持って、やっぱりやたらと上から目線な感じで言ってきたのだ。


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