第117話 vsリヴィング・グレタ(下)

 歴戦の逃げ足の早さと勝負勘で、ノータイムですぐさま逃げを選択した俺に、しかしリヴィング・グレタが間髪入れずに襲い掛かってくる。


 俺は逃げようとしたはずが一瞬で回り込まれてしまって、


「バカな!? 俺の逃げ足の早さに余裕で反応して回り込んでくるなんて! くっ、これが傭兵王グレタの実力か――!」


 今度こそ俺は死を覚悟した。


 アイセルとサクラとシャーリーが3人がかりでやっとこさの相手を、俺が単独でどうこうできる可能性は限りなくゼロだ。


 それでも万が一を信じて。

 俺は必死に動いてなんとか距離をとって、せめて致命傷だけは避けようとあがいてみせる。


「簡単に死んでたまるか――!」


 『星の聖衣』にさえ当たってくれれば瞬間硬化して1発くらいは防げる。

 初手さえどうにかできれば、アイセルの援護が間に合うかもしれない。


 しかしリヴィング・グレタは必死に逃げようとする俺をあざ笑うかのように、俺に向かってまっすぐ鋭く踏み込んできて――!


「ぐ――っ!」


 ああこれ無理だ、速すぎる。

 マジで無理、死ぬ。


 しかもこいつってば明らかに『星の聖衣』で覆われてないところを狙おうとしてるんだもん!


 第六感でも持ってるのかよ!?


 ――いや、違うか。


 防御する時に星の聖衣で覆われた部分を前面に出す俺の動作を見て、星の聖衣の防御力の高さを瞬時に察知し、即座にそれ以外の場所への攻撃に切り替えたんだ――!


 なんにせよ、傭兵王グレタの戦闘能力はあまりに俺と違いすぎていた。


「これが歴史に名を残す歴戦の猛勇、傭兵王グレタか――」


 もはや打つ手がなくなった俺を、傭兵王グレタは悠々と斬り捨てようとして――しかし次の瞬間、


 ステーン!


 と、リヴィング・グレタが盛大に仰向けにひっくり返っていた。


 そして墓石の角で派手に後頭部を打ちつけると、リヴィング・グレタはそのまま動かなくなってしまったのだった。


「ふぇっ……?」


 間抜けな声をあげたのはもちろん、九死に一生を得た俺である。


 何が起こったのかいまだに理解が追いついていない。

 とりあえず間違いないのは、俺は助かったということだけだった。


「い、いったい何が……?」


 困惑しながらもよくよく周囲を観察してみると、リヴィング・グレタの足元には塩の山があった。


 さっき俺が貧弱なリヴィング・メイルに斬られそうになった時に、代わりに塩袋が斬られてできた塩の山だ。


 えーっと、つまり?


「リヴィング・グレタは、この塩の山を踏んで足を滑らせたってこと? それで後頭部を打って動かなくなった?」


 あまりに斜め上に想定外過ぎる結末に、完全に呆気にとられてしまっていた俺のところに、


「ケースケ様、お怪我はありませんか!」

「ケイスケ、無事!?」

「よかった、大事なかったみたいね」


 アイセル、サクラ、シャーリーが次々と駆け付けてきた。


 まずは俺の無事を確認してホッと一息ついてから、俺たちは倒れて動かなくなったリヴィング・グレタを取り囲む。


 アイセルがちょんちょんと剣先でつついてみたけど、リヴィング・グレタが動く気配は全くない。

 完全に活動を停止したようだった。


「すごいじゃんケイスケ! 今日はまさかの戦果1、しかもボス討伐だよ?」


 そんな動かぬリヴィング・グレタを指差しながら、サクラが笑いを必死にこらえながら言ってくる。

 おいこら、ちっともすごいと思ってないのが丸わかりだぞ。


「でもおかしいよな? 滑って墓石で頭を打ったんだから、つまり物理攻撃なわけだろ? ってことは倒せてないよな? なのになんで動かなくなったんだ?」


 ゴーストは物理攻撃ではダメージを与えられない。

 リヴィング・メイルもゴーストなので当然、物理攻撃である後頭部への打撃なんぞでやられはしないはずだ。


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