第42話 トリケラホーン討伐クエストの依頼(下)

「それで本題なんだけど、正直言ってこのクエストはまだちょっと俺たちには早いかなって思うんだ」


 俺はこのクエストを辞退しようと考えていることを、やんわりとアイセルに伝えたんだけど――、


「いえ、やります、やらせてください!」


 アイセルはグッとこぶしを握って情熱いっぱいに言ってきたのだ。


「最近絶好調のアイセルが高難度クエストに挑戦したい気持ちは分かる。だけど単体Aランクってのは相当な強さなんだ」


「ですがAランクの相手ということなら、ついこの前もキングウルフの群れを討伐しましたよね?」


「確かにキングウルフも群れだとAランクだったけど、不意打ちから各個撃破する作戦を取ることができただろ? そしてキングウルフは単体ならBランク相当だ」


「あ……」


「うちのパーティはアイセルの完全1トップ。つまりトリケラホーンとアイセルの完全な1対1での戦いになる。Aランクの魔獣を相手に、純粋な強さ勝負になるってことだ」


 この違いはとても大きい。

 単体Aランクとは、それほどまでに危険な相手なのだ。


「でもですよケースケ様。これは冒険者ギルドから、パーティ『アルケイン』への特別な指名依頼なんですよね?」


 アイセルは納得はしたものの、まだ少し後ろ髪を引かれているようだった。


「そうだけど、だからといって別に絶対に受けないといけないわけじゃないしな」


 確かにこの討伐クエストは冒険者ギルドから、特別な高難度クエストとしてパーティ『アルケイン』に指名依頼が来ていた。


 キングウルフの群れの1つを速攻で討伐したことと、旧水道に潜むサルコスクスを退治したことで、今や俺たち『アルケイン』はここの冒険者ギルドの顔になっていて。


 さらにアイセルはこの地域最強のフロントアタッカーとして、周辺の他の冒険者ギルドからも一目置かれる存在にまでなっていたからだ。


 それで冒険者ギルドを通じて、この辺り一帯を治める領主から直々にこの高難度クエストを依頼されたというわけだったんだけど。


「やりましょう、ケースケ様」


 アイセルはもの凄いやる気をみなぎらせていた。


 その気持ちは本当に分かるんだ。


 ここ最近は隊商の護衛だったり、家畜を狙う野犬を追いはらうとか畑を荒らすイノシシを狩るといったDランクの討伐クエストだったり、「冒険者ギルド主催、エルフの美少女魔法戦士アイセルの講演会(握手付き)」といった仕事ばかりで、大物相手の目立った討伐クエストがなかったからな。


 レベルはまったく上がってないし、アイセルも身体を動かし足りないって感じなんだろう。


「うーん……でもなぁ……」


「ケースケ様が客観的に見て、トリケラホーンは決して勝てない相手じゃないんですよね?」


「それはそうだけど。冒険者ギルドにしても、パーティの力量を判断した上で指名依頼をだしてるわけだし、できないことはないよ」


「だったら――」


「それでも、そこまでリスクを取るものでもないと言うか。Aランク以上の魔獣は、南部諸国連合の各国騎士団の討伐対象にもなってる。だから騎士団に討伐依頼を出せば、そのうち凄腕チームが派遣されて討伐してくれるだろうからさ」


 ただし騎士団はガチガチのお役所仕事体質なので、依頼してから来るまでにかなり時間がかかる。

 加えて地方の治安維持を任されている地方領主&冒険者ギルドのメンツが丸つぶれになってしまうのだ。


 だから俺たちが討伐するに越したことはないんだけど――。


「やりましょう、ケースケ様」


 アイセルがもう一度同じセリフを言った。

 強い意志を込めた瞳と共に。


 身体中からやる気と情熱が、それこそ溢れんばかりにみなぎっているようだった。


「そうだなぁ……」


 それでも俺はなおパーティのリーダーとして、リスクの大きさを考えてしまう。


 だけど俺とは対照的にアイセルの決意はかなり固いようだった。

 なにより今のアイセルは、これぞ冒険者って顔をしていたんだ――。


「……サポートに高レベルパーティをいくつか付けてもらえれば、もしもの時も逃げられるだろうし、リスクはかなりゼロに近いところまで減らせるか……」


 今のアイセルの戦闘力なら、俺のバフスキルを受けつつ100%本来の力を出せさえすれば勝てるだろう。


「ケースケ様、御決断を」


「……わかった、やるか!」


 俺はついに重い腰を上げた。


「ありがとうございます、ケースケ様!」


 こうして俺たちパーティ『アルケイン』は、Aランク大型魔獣トリケラホーンの特別指名討伐クエストを受けることにしたのだった。


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