とある三人の神
学校の教室を模した部屋。
背景には大量の椅子と机が積みかねられ、部屋の中心には一つの机と三つの椅子が置かれている。
席の一つには女性が腰かけていた。その女性は黒髪を腰辺りまで伸ばした美しい顔の眼鏡をかけた女性で、ただどこか少し作り物のようにも思える顔つきをしていた。
ガラガラと、教室のドアが空き、一組の男女が姿を現す。
女性の方は、背の低い子供のような身長の女性で金髪ツインテールという色の濃い見た目をしていた。
男性の方は、赤髪に多数のピアスを開けた褐色肌を持っている、こちらも大分濃い見た目の男だった。
「やっほー、来たよ
「何の要だよ。まだ終了時期は大分先だろ?」
「そうですが、私の担当宇宙で面白い事が起こってまして、二人にも見て貰おうかと」
そう言って、読と呼ばれた女性は空中にウィンドウを展開する。そこには、賀上若勝と夜坂陰瑠がダンジョンで話しているシーンが映し出される。
「だれこいつら?」
「一人は、私の宇宙の代表。もう一人は、私の世界の地球に作ったダンジョンの最高攻略者です。たった三ヶ月で100階層まで攻略した逸材ですよ」
「すっごいんだねー。私たちでも最初の百階層の攻略に十年は掛ったのに」
「しかも、こいつソロだろ? やっぱりいるところには居るんだな、天才って奴が」
読が話した事実に、二人は思い思いの声を上げる。
しかし、言葉とは裏腹に、そこまで驚いている様子も無かった。
「それでも私たちの到達階層には至れませんよ。何百年、何千年賭けたとしても」
「分かってるよそんな事。それで? 面白い事ってなんだよ」
視線を画面に映して男が問いかける。
「彼等は、両想いらしいのですが、今から殺し合いをするみたいですよ」
「へー、それは確かに面白そうだね」
「どんな展開だよ。そいつは出来れば最初から見たかったもんだ」
「正義感の強いヒーローと、ヒーローの為に人を殺した罪人の戦いです」
「へぇ、ドラマとしちゃあ一級品だな」
「けどフィクションと違って、それで両方救われるなんて事は、絶対にありえないんだけどね」
彼等は少年と少女を嘲笑する。何故なら己が掌の上で踊る人間を笑われずには居られないから。
「てか、あの子ってお前の……」
「そうです、あれは私の選んだ天使。だから面白いんじゃないですか。私と貴方の子でもあるんですよ?」
「あー、読がえっちな話してるー」
「安心してください宮。私は
「そうだな。俺もお前たちだけを……」
「うん、他の人間ってゴミばっかりだもん。だから、私も二人さえ居ればいいよ」
そんな常人が聞けば気持ち悪さすら憶えるような会話をしている内に、画面の映像に変化が見られた。
「あの炎なんだ? スキルか? それともクラススキル? まさか神話武器じゃないよな?」
「ええ、その階層までまだ彼女は到達していない。あれは第一宇宙にある魔法と言う技術だそうです。異能力と違ってMPを消費する関係上、下位互換の能力でしかないですが」
「ああ、俺の宇宙の代表もそれ使ってたわ。あれのお陰で、だいぶ楽に攻略が進んでるみたいなんだよな。けどまあ、結局異能の劣化能力なのな」
画面に二匹の炎の龍が激突する光景が写る。その一方がもう一方の龍を飲み込む。
「すっごいねぇ。龍もかっこいいし」
威力ではなく、ビジュアルが優先されるのは、それだけの炎の規模であっても彼等には何ら驚異的ではないと示唆しているのだろう。
「あの女、結構強いじゃん」
「ええ、彼女の
救世主。それは使用者に対して好意を向ける相手から魔力を受け取ることができる能力。
それを使えば、他の代表者や彼女自身の知人や友人から魔力を吸い上げる事ができる、これは魔法と非常に相性の良い能力だ。
これが有れば、並大抵の魔法使いに負ける事もないだろう。
読はそう考える。だが、彼女は知らない。今や、地球上の全人類がその対象下になって居る事等。
映像は二発目の
「お、どうやら決着がついたみたいだな。一発目耐えたんだから頑張った方だろ」
「すごかったねー。それで、どうするんだろ。泣いて終わりかな? まあそれはそれで、現実的っちゃ現実的だよね」
「あの子には前世から絶望しかありませんね。ジャンヌ……」
「まあ、あれはそういうもんだ。他の人間と相いれない存在。俺たちが作ったにしちゃ上出来な部類ではあるさ」
「まあ、確かにね」
「そうですね」
そう言って彼等は自虐的に笑う。
ただ、そんな話をしている内にも、画面に変化が訪れる。
「おい、何か可笑しくないか? なんで俺たちの宇宙の代表が居るんだ?」
画面には死体を抱えて泣きじゃくる賀上若勝の元へ男たちが現れる。空間転移によって現れた三人の人物は、第三まである三つの生命体が存在する惑星の中から五人づつの選別者の中でも、代表的な人物だった。
「何故、彼らが一緒に居るんでしょうか?」
「俺も知らねえぞ。そもそも、別の異界に閉じ込めてたハズだろ」
「宇宙を越えて見つけ出すなど……!」
一つ、彼女は閃いてしまった。考え得る方法を。
「ダンジョンへの扉への転移権限。そうか、アルベルトはそれを奪うために……、ダンジョンを中継して他の宇宙へ出向いた……?」
確かにその推測は、彼の異能である『空振帝』があれば可能だと、彼女は情報を精査した。
ダンジョンは全宇宙の中心点に存在する。その地点に対して、彼等の異能で三つの宇宙の何処からでも接続できるように改良していた。
その回線を利用してアルベルトの空間転移と彼等が作った三つの宇宙への接続回線を利用されれば、それを経由して三つの宇宙を移動する事はアルベルトの異能のレベルとその体内魔力でも可能だった。
「まさか…… 私たちを出し抜いて何か画策を……?」
気が付いた読は悔しそうに爪を噛んだ。
それを見た赤髪の少年、
「心配すんなって。全部ばれたとしても、リセットしてもう一回やり直せばいいだけの話だ」
「ええ、そうですね」
「ねえ、どうせなら行ってみようよ。やり直すにしてもあの人たちに色々を聞いてからの方がいいでしょ?」
ただ、彼らが移動を始めるよりも早く、画面から声が聞こえてくる。アルベルト・アインシュタインの声だ。
『神々よ、見ているのだろ? 小童ども早く来るが良い、それで全て終わりじゃ』
「「「は?」」」
唯の人間に、神とすら呼べる自分たちが侮られ、剰え掌の上で踊らされた。
その事実にようやく彼等は思い至る。
そして、ブチ切れた。
転移のスキルが発動する。天才と称えられようが、ただの人間に、自分達は負けないとそう自負しているから。
ただ、その行動すらもある老人の掌の上であるという事実に、激情した彼等は気が付けない。
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