詳細情報を解禁しました
『詳細情報を解禁しました』
それはちょうど、20階層のボスモンスター『リッチ』とでも名付けるべき魔法を操る人骨のモンスターを討伐した時に響いた声だった。
同時に俺の視界に慣れ親しんだ日本語で、詳細情報という半透明な表示が浮かんだ。まるでパソコンで使われるウィンドウをそのまま現実に持ってきたかのようなそんな画面。
スキル《捕食》
死骸を対象に、内在しているエネルギーを吸収する事が可能。
魔力量5231
その文字に書かれた魔力量と言う項目は、確かに俺の体感している魔力量と一致し、何より俺の得た捕食という能力が書かれていた。捕食の効果説明と魔力量の表示が、詳細情報という事なのだろうか。だとしたら全くの無駄な力だ。その両方とも俺は既に知っているのだから。
「まあいいか、魔力が見やすくなったとでも思っておくことにしよう」
『21階層への転移が許可されます』
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「あっつ……」
21階層からは砂漠のステージだった。日差しが熱く、汗がダラダラと流れる。水はコインで無限に手に入るから熱中症なんかに罹る事は無いだろうし、罹ったとしてもポーションがあるから心配はない。ポーションの効果について色々と試したところ、深めの傷でも即時完治させられる程度の回復薬という事が解った。飲んでも傷口にかけても効果は発動し、3秒くらいである程度までの傷なら塞がる。ただゴブリンなんかで試してみると、切断された腕とかは元に戻る事は無い様だ。そしてこのポーションは病状や状態異常にも効果を発揮する、万能薬と言ってもいい代物だった。
「蠍か」
ここからの階層の敵は蠍らしい。正し、そのサイズは普通の蠍とは比べ物にならず、小型自動車程度の大きさを有していた。それがわらわらと、俺を取り囲むように展開する。
「第五術式、
この魔法の消費魔力は2000前後。効果時間は最低魔力で一時間程度。自分の分身体を作る魔法だが、その能力値は、俺自身の全ての状態が反映される。
身体強化を自分に掛ければそれが適応されるし。
「
風を纏えばそれも反映される。
その姿は完全に俺の模倣、その武器すらも。
三番台の消費魔力は500と少し。
第一三術式、
「
蠍は、腹部にある器官で空間の振動を感知している。
つまり、音を出さなければその眼は盲目と同じ。
三人に増えた俺が、三方向から、一匹の蠍に突撃する。
その絵はまるで巨大生物に対する狩りの様で、事実俺にとってそれは魔力を奪い取るという狩り以外の何物でもなかった。
「KISYAAAAA!!」
「うるさいな」
小太刀が腹部に突き刺さり、前後ろ共に脚を切り飛ばす。
そうなってしまえば、こいつに既に戦闘能力は残っていない。
残る一本の前足と尾による攻撃は、どちらも最低限のバランス能力から放たれる物だ。
だが、いまのこいつにそれはもう無い。
顔面に小太刀を差し込めばそれで終わる。
「捕食」
蠍一匹分の魔力。
大体5500ってとこか。
その内9割が俺の魔力として吸収される。
「ほぼ全回復したな。それじゃあ、お前等も混ざれよ?」
囲むように展開していた蠍たちは、最初の一匹が数瞬で死んだ事に委縮しているようで、中々襲ってこない。
ただ、リーダー格のような一匹がその両腕を振り上げながら突撃を始めるのに合わせて、囲んでいた10匹程度の蠍全員が一斉に動き始める。
取り合えず、5500まで上げるか。
第一六術式、
六番台の術式に必要な
一発使えばガス欠だが、その一撃で一匹仕留められるのなら実質的なコストは0に等しい。
「
リーダー格であろう個体の頭上に、瞬間的に移動する。
一つ、異能力について分かった事がある。
その発動の理屈に違いはあっても、異能力で出来る事は一つの例外もなく全て魔法で再現できるという事だ。
勿論、戦略級の異能力者の能力全てを把握している訳じゃないから確証は無いが、それでも俺が今までに知った情報の中にある異能力者の異能で、魔法によって再現不可能と思われた異能は一つもなかった。
だから、俺は異能をこう解釈する。
一つの魔法を無限に使える能力。
なら、あの能力も。
俺はまず一つ、新たな魔法を作り出した。
第五一術式、
「
それは、あの女が使っていた異能力を魔法に落とし込んだ物。
効果は重力を自分の手の平から発生させ、相手を吹き飛ばすという物だ。
しかし、それを上から下に向かって使えばどうなるか。
「潰れろ」
甲殻類の破裂する音はあまり気持ちのいいもじゃないな。
捕食によって魔力を吸い取る。
ただ、それだけで、ピクッと他の蠍は動きを少しだけ緩めた。
「お前たちも、恐怖するのか?」
俺もそうだし、あの人もそうだ。そしてあいつも。
だが、その感情は決して悪い感情じゃない。
その感情は、怒りに変えられるのだから。
影人が絡みつき、一体の蠍を仕留める。
四二、
「
あの時は、人を殺す気は無かったから動きを止める程度にとどめておいたが、今はその気はさらさらない。
砂漠の砂が高質化し、それを地中から棘の様に突き出す。
蠍の群れは、意識外の下からの攻撃に成す術なく串刺しになっていく。
外殻は強固でも、腹部の装甲はやはり諸い。
後は、炎の耐性とかも確認しておきたいな。
「
パチパチと、破裂するような音が聞こえる。
軽自動車に迫るサイズの蠍の破裂音は、耳に残る程度にはうるさかった。
「捕食」
死体の山から魔力を吸い出していく。
同時に、戦闘によって消費した体力も戻す。
「暑さも薄れるのか」
どうやら、新陳代謝も良くなるらしい。
身体の水分が戻ったという事は無いらしいが、揚がっていた呼吸が落ち着いた。
「KISYAAAAA!!」
もう次が来たのか?
「取り敢えず、この階層の蠍を全滅させるか」
二八術式、
「
転がっていた蠍の死骸が動き始める。
三十分間、こいつらは俺の支配下になる。
一体の蠍から吸収できる魔力よりも、一体の蠍に悪魔召喚を使う方がコストが高いから全ての蠍を支配下に置く事はできないが、それでもその数は右肩上がりで増え続ける。
「蠍たちを狩って、死体を持ってこい」
そう指示すれば、悪魔が取りついた蠍たちが一斉に行動を開始する。
「さて、俺も行くか」
ここからは、サイズ的に俺の大きさを越える敵も多く出現するだろう。
なら、こいつらはその登竜門として、有益な働きをしてくれるはずだ。
新しい師匠が出来て嬉しい限りだよ。
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