修行
10階層のボスモンスター、ゴブリンキングを五匹配下にしていたエンペラーとでも呼ぶべき個体を吹き飛ばす。
5階層の時と同じだ、大量の死体を作り上げ、そこから魔力を一気に吸収する。
その魔力を魔法へと込め、魔法を組み上げる。
第二八術式、
「
この魔法は、八番台にしては消費魔力はそこまで多くは無い。
ただし、発動するために生物の死体を供物にする必要がある。
その効果は、死体に悪魔の魂を宿す事で使役する物。
「食らい尽くせ」
今は、虫の居所が悪いんだよ。
お前ら程度に構っている
死体になった鬼たちが立ち上がり、攻撃を開始する。
悪魔化している今のこいつらに死の概念は存在しない。腕が無くなろうと、足が飛ばされようと動きを止める事は無く、俺が敵と判断した相手に襲い掛かり続ける。
戦闘力、耐久力共に敵の性能を上回り、何れ数も上回るだろう。
悪魔の召喚時間は消費した魔力に依存するが、最低消費で発動したとしても30分は持つ。
築かれていく死体の山は、イコールで俺の魔力だ。
「少し、八つ当たりさせてくれ」
三六、
三、
四、
五、
一三、
四七、
四四、
三三、
皮膚を高質化し、風を纏い、空を蹴り、分身を生み出す。
音を消し、武器を作り、振動させ、研ぎ澄ませる。
ここまでの数の魔法を同時に使ったのは、前世も含めて初めてだ。そして初めて、親父に連れていかれた刀の博覧会の思い出に感謝したよ。
キレているのだろう。何も守れない自分の無力さに。
剣術など毛ほども知らない。だから、ただ魔力による身体強化に任せて、出鱈目に振るっているだけ。
それでも、多重の魔法を付与された俺の肉体と武器の一閃は、いとも容易くその首を刎ねていく。
「その
大量の魔物が出鱈目に現れては消えていく。
ボスのフィールドは雑魚が無限に湧くらしい。ここなら、普通の階層で殺しまわるよりも、効率よく魔力を回収できそうだ。
音もなく疾走し、気が付かれないように後ろへ回り込み、その首へ小太刀を差し込む。
首が弱点なのは人間と変わらないらしい。
殺した傍から悪魔の魂を突っ込んで使役する。分身はその数を増していき、モンスターと、俺の影の入り乱れた軍勢が作り上げられる。
「捕食」
全てが終わったその部屋で、俺は異能を発動させる。
異能と魔法の最大の違いは持続力だ。魔法は使えば使う程に魔力を消費し、それが無ければ発動できなくなる。
ただし、異能は別。どれだけ持続的に、どれだけ連続的に使ったとしても関係なく、無限に使うことができる。ただ出力面では魔力がある限り、自由に威力を高められる魔法に軍杯が上がるだろう。
ただそれでも、あの重力に抵抗できるようにならなければ俺は戻れない。
「
この魔法は、自分以外の最期にその持ち物を所持していた人物の現在地とその身体的状態を把握する。
賢者の開発した魔法の中でも、特別な状況でなければ使用が制限された程悪質な魔法だ。二十番台の呪術系統は基本的に使用制限を設けられていた。ただ、この世界では関係ない。
片付けが不得手、と言うか全くしない俺にとって邪魔な物を亜空倉庫に入れてしまうのは一種のクセの様な物だが、今はその掃除をしないという性格を褒めるしかない。
大量に入れられたゴミの中から、十華が食べたお菓子の袋を取り出して魔法を発動させる。
場所は白栄ギルドの本部。状態は正常。白栄ギルドは日本にある国が作ったギルドだ。日本ではもっとも多くのSS級トラベラーを保有するギルドであり、ダンジョンに関する事件を調べる役割も担っている。
十華はそこに軟禁されているようだ。
少しだけ待っていてくれよ。十華。
これは賢者の目標も若勝の事も差し置いてでも、最も優先するべき、目的だ。
ーー
11階層への扉を潜れば、そこは今までの草原とは全く違った場所だった。
民家が立ち並ぶが、その建造物は現代日本の物ではなく中世の建築様式でも取り入れた可能な材質をしている。
ただ、その街並みは既に荒廃した物だった。
何かが軋むような音が至る所から聞こえる。肉がべちょべちょと歩くような音も。
「KAKAKAKAK」
「VOOOO~~」
そこに現れたのは人骨の魔物と、肉が半分以上削げ落ちたような生物。
「スケルトンにゾンビか」
その魔力保有量は3200前後。ゴブリンエンペラー程ではないが、それなりの魔力を持っているようだ。
第三術式、
「
加速の魔法を自分に発動させる。
「少し、遊んでくれよ?」
近接戦闘能力は遅かれ早かれ必要になる。なら、見るからに鈍そうなこいつらは修行相手に丁度いい。身体強化には治癒の効果もあるし、捕食で体力を奪えば疲労は蓄積されない。俺はいつまでだって戦い続けられるし、どこまでだって強くなれる。
脚力に任せ、迫り、殺していく。
腕を落とし、脚を切り、内臓を突き刺し、首を飛ばす。
武器はゴブリンエンペラーの遺骨を変形させて作り上げた小太刀だ。
殺せば殺す程魔力が空間に溜まり、次の魔法を発動させられる。
龍爪と振動衝撃で、武器の切れ味を増していく。
身体強化に回せる魔力も増えていく。
無限に近い速度で湧き出てくる魔物を一匹づつ屠っていく。
固まっている位置の敵には、炎息吹を投げつけて燃やす。
スケルトンは自分の身体を切れ味の良い刃物へ変形させるし、ゾンビは一発で木製の家を崩壊させる程の身体能力を秘めているが、どちらも敏捷性に乏しい。
ゾンビに至っては瞬間的な
魔力の貯蓄量が増加していくのを感じる。
斬り方が解ってくる。肉の断ち方が、薙ぎの使い方が。回避の仕方が、敵の動きが、それを少しづつ、俺の身体が覚えていく。
「KAKAKAKAKA」
「GUOOOO~~」
相手は無限に湧き出ていく。
近接戦闘の技術が上がっていくのと同時に、魔法の使い方が解ってくる。
気の誘い方、魔法を挟み込むスペース、徐々にそう言った技がつかめてくる。
間合いの重要性、攻撃範囲の把握、防御と攻撃のバランス、フェイント、駆け引き。
そんな物が最適化されていく。
無尽蔵の体力は全ての技を試すだけの時間をくれる。
無尽蔵の魔力は魔法の応用性を見出させてくれる。
「師匠とでも呼ぼうかな」
動かなくなったアンデットから返事が返ってくることは無い。
こいつらは首を飛ばしても動き続けるが、胸の位置にある核のような物を壊せば一撃で動かなくなる。
そうすれば、最早捕食対象以外の何物でもない。
魔力となって、体力となって、俺へと吸収されていく。
死体は亜空倉庫に投げ込んでいく。何の役に立つか分からないからな。
賢者だった頃の収集癖も相まって、俺は今まで倒した全てのモンスターの死体を亜空倉庫に収納している。無限に仕舞えるというのは、やはり便利な物だ。
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