そこに見える景色

きみのなか

第1話 〜別れ〜

起き上がると窓の外には秋の風景が広がっていた。

落ち葉が舞い、服によって人々が夏よりもひとまわり大きくなっている。

中にはマフラーをする人もいる。

わたしも寒いのが苦手で、一番好きな季節は夏だ。

その大好きな夏が過ぎて、10月となると部屋も少しだけ肌寒い。

せっかくの土曜日だというのに、昼前まで寝てしまったことに少しだけ罪悪感を感じる。

とはいえ、私は眠るのが好きだ。

寝ていられるのなら、ずっと寝ていたい。

部屋のベッドの上で軽く伸びをすると、テーブルの上に封の空いた350mlの缶ビールが3つ置いてある。

「久しぶりによく寝た気がする」

いつもであれば、土曜日は朝7時には起きるが、昨日は目覚ましもかけずに寝た。

というよりは、記憶があまりない。

朝から少し喪失感を感じているのは、秋だからだけではないだろう。

「そういえば昨日の夜に別れたんだっけ」

ベッドの上に落ちている携帯を手に取ると、昨日別れた祐介からメッセージがきていた。

「百合香本当にごめん」

たった一行だけ。

相変わらず無愛想なメッセージだなと思いながらも、そのまま画面を閉じた。

彼のメッセージはいつも素っ気ない。

そもそも、別れを告げられたのも電話越しだ。

私が古風な人間なのかはわからないが、大切な事は会って伝えて欲しいと思う。

それとも、わたしは彼にとって会う価値すらないのかなんて事を考えようとして、頭を振って気持ちを切り替える。

「さて、今日は何をしよう」

友達と出かけるのも疲れるし、かといって一人で特段やることもない。

いつもはウェブサイトを見ていると1日が終わってしまう。

そして、それを悪い事だとは思っていない。

「お腹空いたなー」

思えば、昨日はほぼ食べずにビールだけ飲んでいた。

二日酔いこそ無いものの、飲んだ次の日で一人のランチ。

どうせ一人で食べるなら、久しぶりにラーメンでも食べようかな。

ラーメンは好きだけど、彼氏がいるとなかなか食べる機会がない。

彼氏がラーメン好きだとしても、女性をラーメン屋に連れて行くなんてと思われてしまうらしい。

わたしは大歓迎なんだけどなといつも思いながら、口に出すと男っぽくて嫌と言われるのが怖くて口に出せない。

問題はどこのラーメン屋にするかだ。

気になるお店は多いが、やはり女性一人で入るにはどうしても気を遣ってしまう。

寒くなってきたから、味噌ラーメンなんていいかもしれない。

渋谷のオフィスの側に、気になる味噌ラーメンがあったんだった。

休日に職場の側なんて行きたくない衝動もあるが、ラーメンを食べたい欲求の方が強い。

平日のお昼にラーメンを食べてしまうと、匂いで注目される可能性があり、避けざるを得ない。

女性は何か一つ行動を起こすだけでも変なレッテルを貼られかねないので大変だ。

社内で変な噂が立ってしまったら目も当てられない。

「そういえば、最近は映画も見てないから、映画館に行ってからラーメンにしよう」

特に観たい映画があるわけではない。

でも、ラーメンだけで職場の側に行くのは心の疲弊度からして割りに合わない気がした。

目的が出来たとはいえ、すぐにやる気は起こらない。

一度横になってから、祐介の事を思い出す。

「今回も失敗しちゃったか」

28歳になると、周りは結婚していき、自分だけ取り残されているような気持ちになる。

特に強い結婚願望があるわけではないが、結婚がしたくないわけでもない。

今までで付き合った人数は4人。

全員相手から別れを告げられた。

私に非があるといつも思い、自分なりに改善するけど、一体何が問題なのかは見出せないでいる。

結局は親とか周りに流されてるだけなんだとわかってはいるけど、どうしていいかの答えが見つからない。

性欲もそんなに強くないし、生活も一人でできるから、彼氏が居たら楽しいけど、居なくても平気だ。

友達ですらそんなにいらない。

「生きづらい世の中だなー」

思わずボソっと本音が出てしまった。

愚痴をこぼしてる暇があるなら行動しようと真面目な性格が出てくる。

あまり飾り気のない格好をしながらも、一人だしこれでいっかなんて考える。

渋谷までは電車で1時間。

その間になんの映画観ようか決めよう。

別になんだっていい。

でも、今は恋愛映画じゃ無いのがいいな。

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そこに見える景色 きみのなか @teruteru_saito

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