閑話 同じ轍(マイネ視点)
今代勇者に同年代の少女がなったと聞いたとき、素直に凄いと感じた。
勇者というのはどちらかといえば、力の象徴だ。
体力と腕っぷしだけが求められる。
実際に歴代の勇者は筋骨隆々の男ばかりで、少女というのは聞いたことがない。
だから、実際にミーニャと会って驚いた。
普通の可愛い女の子だったからだ。
なぜ勇者になんてなったのか。
なぜ勇者になれたのか。
聞きたいことはたくさんあるのに、水色の瞳は無機質で一切の感情が見えない。
聖女になったとき、あまりの力の強大さに同年代どころか皆がひれ伏した。おかげで友人なんてできた試しがない。興味があってもなんと声をかけたらいいのかわからなかった。
そうこうしていると死人すら行き返せるだんて噂が流れてますます崇められた。
どこに行っても一人だった。孤独だ。
友人なんて夢のまた夢、遥かに遠い存在だ。
そんな中、出会った少女に、全力で期待してしまった。
友達になれるかもしれないなんて、願望を抱いてしまった。
初めての顔合わせでは碌に話もできずに彼女は帰ってしまったと聞いてがっかりした。
だから、こうして家まで押しかけてきた。
彼女はやっぱり無機質な瞳を向けてきただけだけれど。
彼女の兄という人が、満面笑顔で迎えてくれたから、勇気が出た。
二人で遊んでおいでと家から出されたので、ミーニャに着いていった。彼女は無言でずんずん進んだ。その先には湖があった。
ここで遊ぶのかなとマイネはワクワクした。
だが振り返った少女の瞳は、無機質な水色で、ちっともマイネに興味がないことがわかる。
そんな瞳を向けられたことがないので、ちょっと興奮した。痺れたと言っても過言ではない。
やはり、自分の目に狂いはなかったのだと確信した。
「何しに来たの」
「あの、そのお友達になりたくて…」
「はあ? いらない」
「ああ…ステキ…」
思わず本音が漏れた。
優れた聖女たる自分を欲する人はあれど、すげなく捨てる人はいない。こんな拒否するような言葉を吐かれたこともない。
「どうしたら、お友達になってくれますか?」
「ムリ」
無理ということは方法はないということだ。つまりなって欲しいとお願いするのではなく、自分が勝手に付きまとえばいいということだろう。
ポンと手を打って、マイネはにっこりと微笑んだ。
「ミーちゃんって呼んでいいですか?」
「え、嫌」
「わかりました、ミーちゃんて呼びますね。私のことはまぁちゃんて呼んでください」
お互いの愛称呼びなんて仲良くなった証だ。友達っぽくてドキドキする。
「人の話を聞い―――」
「お兄さん、ステキな方ですね」
「…っ、私のだから!」
「でも、お兄さんは私とミーちゃんに仲良くしてほしそうでしたね」
「あなた、イイ性格してる…」
なぜか悔しそうに、ミーニャが呟く。
イイ性格とは?
「褒めてます?」
「そんなわけないでしょ」
「ここは静かでいいところですね。湖もキラキラしてて。いつもここで遊んでるんですか、どんなことしてるんです?」
やや呆れたようにミーニャは、ニヤリと笑った。
だんと湖の淵で、一つ大きく地面を踏みしめた。
「いいわ、遊びかた教えてあげる」
「え、本当ですか?」
喜色を浮かべてミーニャを見つめた瞬間、もこりと浮き上がった湖面が、崩れてマイネを襲った。
「きゃあああ!」
冷たいが水とは異なる感触のものに押し潰されて思わずしゃがみこむ。
「コイツらは湖面に近づくと出てくるんだ。振動を感知して生き物が来たって判断するんだよ。振動の大きさで出てくる量が変わるんだ。今回はわりと多いかな、新記録だね」
「なんの遊び…ひっ、痛い!」
「クラッシュゼリーって知らない? こいつをどれだけ岸にあげられるかで、いつも遊んでるよ。ただ刺すから私は触らないけど」
「へ、あ、痛っ、あ、あのなんか熱くなってきたんですけど…?」
「催淫効果があるらしいから。発情してるの、やらしいなぁ。お義兄ちゃんに絶対近づかないでね」
「え、嘘、やだぁ…取ってくれませんか?!」
「私、触れない」
「そんなぁ」
神聖魔法を使えば浄化はできる。そのため必死で浄化するも本体自体を払えない。なんとか発情は抑えられるが、いつまで経っても離れない。
「あ、そうだ。そいつら、服も溶かすから気をつけてね」
「やぁっ、取ってください…っ」
思わず泣きつつ懇願した。
自分は別に友達になりに来たのであって痴女になるつもりはない。
このままだと確実に変態さんの仲間入りだ。
そんな時に目の前に現れたのはミーニャの兄だった。
彼はミーニャを叱りつけて湖で溺れていたマイネを助けてくれたのだ。
これは惚れないというのが難しい。
逞しい腕にしっかりと抱かれて岸に上げられ、そのまま家の風呂へとお姫様抱っこで運ばれた。
これは心してかからねば、ミーニャと同じ轍を踏みそうだ。
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