閑話 不思議な男(ゼリーア視点)
ゼリーアはカテバルをなだめすかして、なんとか詰め所からお引き取りいただいた後、自席につきながら、深々と息を吐きだした。
「君たちから話は聞いたけれど、なんとも不思議な男だな」
手腕はどうあれ、小隊全員を躱して今代勇者の元にまでたどり着いている。
騎士が力づくで抑えようとしても逃がしたのだから、それなりの実力はありそうだ。その取り押さえようとしたカレンだが、腕の骨にひびが入っていたと療養中なので、この場にいない。
本人は自身の鍛え方が足りないと落ち込んでいたので、カテバルには報告しなかったが。
「名前は、あー、なんだったか」
小隊を眺めれば、ステラが真っ先に口を開いた。
「ハウゼンです。アインラハト=ハウゼン」
「そうそう。なんだか、どこかで聞いたことがあるんだよなあ。道具屋なんだよね?」
「普通とは言い難いっすけどね。おかしなものばっかり売ってる道具屋っす」
「王都ではお目にかかれない珍品ばっかり並べてあるんだ。外れにあるから仕方ないって兄ちゃんは言ってたけどな」
「仕入れ先も謎なのよねぇ。聞いたことないものばっかりで。この前は竜の髭を持ってらしたわ」
レイバナヤが答えれば、カナリナとドーラが続く。その横で、ミルバがこくこくと首を振っていた。同意、ということだろう。
顎をさすりながら、思わず唸る。
「竜の髭ねぇ?」
ドラゴンと呼ばれる存在が見られなくなって久しいが、未だにその手の名前の古物が出回る。それが王都の外れの道具屋で見られるだなんて、普通ならば眉唾ものの話ではある。
「で、本物なのか?」
「確証はないのですけど、力は感じられたわ。あれは確かに何かの魔力を秘めているようよ」
ドーラは聖乙女だから、魔力の流れに敏感だ。
聖魔法というのは、基本的に相手の魔力に干渉しうる力だからだ。
彼女がきっぱりと答えるということは、相当な力を感じたに違いない。
それがしがないとされる道具屋に置いてある。
しかも今代勇者の義兄だ。
血のつながりはなく、出て行った嫁の妹を育てているらしい。
一見美談に聞こえるが、なんだか腰がむずむずする。
まるで子供がむちゃくちゃに積み上げた積み木を見た時のような。収まりがつかなくて、そわそわする気持ちだ。
それはゼリーアの長年の騎士としての感というものなのかもしれないが。
「それを、何を思ってか棚のほこりを払う道具に使うから、あやうく悲鳴をあげそうになりましたわ」
未だに思い返しても恐怖なのか、表情をひきつらせたままドーラは息を吐いた。
「竜の髭を掃除道具にするのか……なんとも、本当に不思議な男だね?」
関わっている小隊を見回せば、それぞれが思い思いの表情で頷いてくれた。
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