第3章
第31話 義妹には秘密
「いらっしゃいって、なんだバウルンか」
店先に顔を覗かせた馴染みの男に、アインラハトは明らかに肩を落とした。
「なんだってひどいな。一応、客だぞ」
「客なら一応とか言うな。どうせ売り上げに貢献しないだろうが。今日はどうしたんだ?」
「お前にちょっと相談があってな。というかそろそろだと思ったんだが…ところであの怪獣はどうした? いないのか」
「今日も仕事だ。絶対についてくるなと釘を刺された。なんで後つけたことがばれたんだろ?」
「俺が知るか。どうせ野生の感的な何かだろうさ」
「お前は全く取り合う気がないな」
「当たり前だ。お前ら義兄妹に真剣に付き合ってられるか」
「なんでだよ、幼馴染みのよしみで聞いてくれよ」
「お前があの怪獣を怪獣と正式に認めたら聞いてやるよ。それより、いないならちょうど良かった。ほら、そろそろアレの時期だろう。去年みたいに小娘が騒いじゃ仕事が遣り辛いと思ってさ」
言われて、アインラハトはああと憂鬱なため息を吐いた。
「もうそんな時期になるのか。一年は早いなあ」
「交渉に行くんだろ。いつから行くんだ?」
「そりゃ、早ければ早いほうがいいが。ミーニャに内緒となればなかなか難しいな。次の仕事がいつかわからないしなぁ」
「隣とは仲良くやってるんだろ。事情を話して預かってもらうとか?」
「残念ながら物凄くミーニャが人見知りを発動していて…」
「あー、敵と見なしたか」
「敵?!」
全く穏やかじゃない単語に思わず仰け反れば、バウルンは苦笑した。
「大事なお兄ちゃんを取られたくないんだろ」
「取られるってなんだ。俺がミーニャを置いて何処かに行くわけないだろ」
ミーニャの姉は、つまりアインラハトの嫁ではあるが、彼女からしてみれば本当にある日、突然居なくなったことになる。
自分には心当たりはあれど、ミーニャにとってみれば晴天の霹靂といったところだろう。事前におかしなところもなかったから、本当に何が起きたのか正直わからないに違いない。
それなのに、彼女は一度も姉がどうして居なくなったのかアインラハトに尋ねなかった。
実の姉に置いていかれたミーニャは、だから同じ年齢の娘たちよりも子供っぽくて甘えん坊だ。仕方ないとアインラハトは思っている。
だから、何度もミーニャに傍にいるよと伝えている。置いていかないよ、と。大好きな可愛い義妹が安心するまで。
「お前が義兄馬鹿だってことはわかってるから。で、結局、いつにする?」
やれやれと言わんばかりにバウルンがカウンターのへりに頬杖ついて尋ねた。
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