エール

 下弦の月がひときわ美しく

 輝き光る晩です


 キリリと冷えた空気が

 身を凍えさせる


 夜の長い時期には

 いっそう独りがしみるものです


 とくに創作などしておりますと

 ひとつ向こうの世界にいるような

 気になります


 扉一枚隔てた現実と架空世界を

 物書きは行き来して

 言葉を紡ぎ連ねて

 具現化して

 読み手に伝えるために

 尽くすのです


 たまには逃げ出したくなるほどの

 虚しさと重圧

 本当に必要とされているのかの

 疑心暗鬼に塞がれ

 巻かれ

 身動き取れぬほど


 なのに

 またもや創作の海に

 身を投げ焦がし

 情熱とカタルシスの

 火種を灯す


 それが似合う漆黒のベールの時

 あなたは私にエールをくれた


 ひっそりと

 こっそりと

 世に放った言の葉を

 見つけ出した

 あなたは優しい

 そっとくれたエールの思い


 あなたは同志です

 病に倒れたあなたを

 今度は私が励ましたいのに


 言葉は力を持つのに

 私はなんと無力だろうか


 エールを送りたい

 なのに

 言葉は見つからなくて

 頑張れと言わないエールは

 どこにあるのでしょうか?


 代わりなどなくて

 あなたは多くの人を元気にしてきた


 脚光を浴びることのない者にほど

 与える励ましの思いは

 あたたかく

 無償の愛すら感じさせる


 マリア様のような

 あなたは

 みんなの同志です


 今、病に倒れたあなたが

 どうか痛みから逃れ

 望みを抱いて

 生き長らえて欲しいと

 願うのです


 いてくれた時には

 当たり前で


 去ったあとは

 あまりにも大きな空虚な穴が

 空いている


 太陽のようです

 花のようです

 風で

 時には灯台のような

 存在だったと


 あなたは

 いつしかみんなの拠りどころでした


 病など消えてなくなれ

 またここへ

 おいでよ

 どうか元気になって

 帰っておいでよ


 ああ、下弦の月が

 とても綺麗ですね


 ひときわ美しく

 輝き光る晩です



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