第16話 嘘は彼


嘘を吐くことは悲しい。

嘘を吐かれることは悲しくない。


最初から期待していない。

信用するだけの時間もない。

ただ受け流すだけの関係。

約束を守るだけの信頼が、

約束を交わすだけの期待が、

もともと君には備わってないんだ。

だから、

君も僕を信用しなくていい。

期待しなくていい。

笑わないで、怒らないで。

悲しまないで、無感動でいて。

ただの確認。報告。事務的作業。

空気のように無視して欲しい。

当たり前にそこにある

自分に何の影響も与えない

ただの存在だと認識して欲しい。


嘘なんて吐きたくなかった。

嘘を吐くほどの存在じゃなかった。

他人よりも他人のようだった。

関わり合いになりたくなかった。

知り合いになる可能性の全てを

拒否してしまいたかった。

それなのに、それなのに。


今、僕は君とこんなにも二人きり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る