王位継承戦


「結婚?」

 なぜ、そんな事になるのかわからなかった。

「どうして、僕が君と」

「あなたが強いからよ」

「そんな女の子より強くても自慢にもならないよ」

「あんた、あたしに喧嘩売ってるの?」

 売ってはない。というか売ってきたのはフィルの方の方である。そして売られた喧嘩をトールは勝ったのである。買ったとも言う。

「そういうわけではないけど」

「王位の継承戦があるの」

「王位継承戦?」

「それに出て欲しいのよ」

「出て欲しい? それで結婚?」

「そうよ」

 話が短絡的すぎる。

「もう少し詳しく説明して欲しい」

「何を?」

「というか、まずひとつお願いがある」

「何?」

「パンツを穿いてくれ」

 さっき否応なく確認してしまったが、間違いなく穿いてなかった。咄嗟の事で視線をそらす事すらできなかった。

「どうして? あなたがノーパンを希望してきたんじゃないの?」

「ち、違う。僕は断じてそういう趣味趣向があるわけではない」

「独占したいタイプなのね。二人きりの時だけでいい、他の男には見せたくないっていう我が儘なタイプ」

 フィルは物思いにふけるような感じで言う。

 違うが否定するのも面倒だ。

「けど残念ね。あたしは今パンツを持ってないの」

「それは一大事だ」

「お金も持ってきてないから買ってきてよ。そこに婦人服屋があるから」

 フィルは指を指す。

「はぁ~」

 トールは溜息を吐いた。


 婦人服屋に入る。まさか、レイから支度金として貰ったお金をこんな事で使う事になるとは思わなかった。

「いらっしゃいませ。何をお望みでしょうか」

 どうでもいいのだが。登校間際って8時~9時くらいで、現実世界準拠だと。普通のお店は10時くらいから開くからやってない事が殆どな気がするが。

 ま、まあいい。そこら辺はすっとばそう。

 女性が寄ってくる。販売員だろう。販売員の女性がそう言ってきた。

「パンツが欲しいんです」

 トールは言う。

「はい? ここは婦人服を取り扱っておりますが、女性用でしょうか?」

「はい。そうです」

「そちらになります」

 そう、女性は言う。そこには大量のパンツが並んでいた。

「恋人への贈り物でしょうか?」

「い、いえ。今使うんです」

「はぁ? 今」

 女性は怪訝そうに首をかしげた。

 ともかく適当なパンツ。白いパンツを購入して店を出る。


「はぁ、はぁ。買ってきた」

「ご苦労様」

「……それにしても」

 ここでパンツを穿くのはまずいだろう。往来の真ん中だ。

 近くの路地裏に入る。ここだったら一目にはつかない。

「穿かせてよ」

 フィルは言う。

「な、なんで?」

「自分で服を着る習慣がないの。いつもメイドがやってくれてたから」

 ああ。王女様だったからな。そう思った。浮世から離れているのだろう。

 仕方なく、恐る恐るパンツを穿かせる。

「……別に良いんだけど、あんまりお尻触らないでよ」

「わかってるよ」

 恐る恐る穿かせる。

「はぁ……」

 トールは溜息を吐く。なぜフィルがパンツを穿く穿かないでこんなに苦労しなければならないのか。

 これでやっと話を本筋に戻せる。この場所のままでいいだろう。あまり人に聞かれて良い話とは思えない。

「それで話を戻すけど」

「なに?」

「王位継承戦の話だよ。あれってどういう話なの?」

「あたしのパパ、つまりは前国王だけど最近死んじゃったの。それで遺言があって、世襲による王位継承って普通は長男が受け継ぐものじゃない?」

 フィルは言う。

「まあ、一般的には」

 無論例外はあるだろう。長男がそれを拒否した場合、次男が受け継いだりする。男尊女卑の社会の場合、普通は女性は選ばれない。差別かもしれないがそういう社会国家が多いのは事実だった。

「あたしのパパはそれをよしとせず、王位を継承する継承戦の末に王座を決める事にしたの」

 フィルは言う。

「それで結婚してたらあなたも出れるから結婚して欲しいの」

 婚姻に関しては法律で様々な決まりがあるが、王国では16歳以上の男女が婚姻できるという法律になっている。

「わかった、事情は理解したよ」

「そう。じゃあ、結婚してくれるのね」

 フィルは言った。

「まだすると決まってない。その継承戦はいつやるんだ?」

「大体三ヶ月後ね」

「なんで僕に出て欲しいんだ?」

「あなたがあたしより強いからよ」

「そもそもその継承戦のルールを知らない。単に強いだけでなれるのか?」

「お題は当日発表だけど。頭脳戦とは思えないわ。この国では剣の強さが最も重要視されるの」

「はあ……」

 大体魂胆はわかった。あの突拍子もないと思われた発言。

 結婚して欲しい旨の発言の意図も理解できた。

「……けどいいの?」

「何が?」

「好きでもない知り合ったばかりの僕といきなり結婚なんて」

「王族ってそういうものだもの。政略結婚の道具みたいにされたり、好きでもない王子と結婚させられるのはよくある事だわ。国を背負っているんですもの。国家の繁栄と個人の意思。どちらが尊重されるべきかなんて考えるまでもない事よ」

 フィルは言う。要するに好きかどうかよりも、有益かどうかが大事なのだろう。好きかどうかというのも要するに相手が魅力的かどうかというだけの事であるから、同じようなものかもしれないが。

「少し考えさせて欲しい」

 トールは言う。

「えー。今じゃダメ?」

「こんな大事な問題即答できるもんか」

 トールは言った。

「とりあえず今日のところは登校しよう。もうすぐ始業時間になるし」

「うん。そうね。わかったわ」

 フィルは言った。

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