第18話 梅雨 絵の中のものがたり


雨、雨、……。今日はどしゃぶり。

ぼくは さっきから庭のほうを見ながらテラスでごろんごろんとしてた。


「けーい!、」とたっくんがよんでる。

「絵かこう、ホールで」

 ホールで?  のぞいて驚いた。

「すっげー、でっかーいい!」

ホールの床にたたみ二枚ぐらいの大きさの紙が何枚か広げてある。


「先生、何かいてもいいの?」

「いいんだよ。大きいらいおんさんは同じ紙にかく?」島先生が言う。


「3人で一緒に描くよなあ」とたっくんがぼくとこうじに言った。

「筆とバケツとっておいで。」と先生。


ばたばたと3にんで教室に走っていって絵の具の道具をだす。

たっくんが「けい、水入れに水くんできてな。」と言って筆をとって、ホールに戻っていく。

こうじが筆をバケツにつっこんでもち、ぼくは水入れのばけつを二つ持ってホールにもどる。

ホールのまんまんなかの紙のまわりに、3にんで陣どって描きだした。


・・・・・・・・・・

 機関車を描いた。それにたっくんたちを乗せてあげようっと。

そうだ たっくんのうちにこないだ散歩に行ったら子猫がいたっけ。あれもぜんぶ乗せてあげよう。

「たっくん、あの子猫かわいかったなあー」と言ったら、


「あー。 あれ ぜーんぶあげちった。うちでは 飼えないっぺよ。しかたないっぺ。」

そうか……。でも3びき客車に乗っけたよ。

次の客車はあさちゃんとりょうちゃん乗っけてあげよ。どこいこうかなあー この機関車。黄色い機関車。


こうじの飛行機とぶつかるぞー。こうじ!早く飛べよー。

「まってくれよ。今 準備してっから。ガソリン入れて‥」


こうじの赤い飛行機は階段がついて人がいっぱいまわりにいる。飛ぶ前はしっかりと調べないとといけないからね。


 「飛行場には機関車ははいれないんだぞー」と

たっくんは太い筆にたっぷり茶色の絵の具をつけて恐竜を描いて、機関車をストップさせた。

子猫が3匹驚いて逃げちゃって、飛行機の階段を登った。

こうじは優しいから飛行機のドアをあけて3匹を乗せてくれたよ。

「大きいぞー おいらの恐竜。」たっくんが恐竜を背伸びさせたけど、こうじの赤い飛行機は青いそらにたかーく飛んじゃった。

飛行機の窓から 子猫が3匹手を振ってる。機関車は白い煙をはいて、ポーと返事をしたよ。

                        ・・・・・・・・・・



突然、黄色い機関車に青い絵の具が飛び散った。


僕たちの絵を見にきてたかっちゃんの筆からぼたっとたれたんだ。

かっちゃんは隣の紙に描いてたのに。

「ああーあー!」って

こうじが悲鳴みたいに大きい声をあげたら、こんどはわざと、

「雨がふってきましたー。」ってかっちゃんが筆を強く振った。

こうじが「ぼくの飛行機がよごれるうーっ」ってわめいたけど、かまわずかっちゃんは「どしゃぶりでーす。」って筆でとんとんと紙の上をたたきはじめた。


ぼくの機関車も子猫もあさもりょうも青い絵の具ですっかりにじんでしまった。

たっくんまで、「茶色いうんこ雨もふってきましたー」って ぼたぼた絵の具を落とし始めた。

 ぼくは初め泣きたくなったけど、もういいや、雨の向こうに消えてしまえ!

「黄色い雨も降ってきましたー」ってぼくも筆を振った。


こうじが また奇妙な声をあげた。手でみんなの筆をはらいのけようと必死だ。

「もうぐちょぐちょだよー」とたっくんは今度は両手の手のひらで絵の具をぬったくった。

 ぼくも機関車を手でなでたら緑色になった。


「おいら 足型しよー」そう言ってかっちゃんが立ち上がった時、べそをかいていたこうじがかっちゃんに飛び掛かった。

かっちゃんはしりもちをついて紙がよじれて破けた。

 すごい形相のこうじはかっちゃんにしがみついていて放さない。


「はなせよー、シャツがやぶけちゃうよー」とかっちゃんは、ちょっと恐そうだった。いつもおとなしいこうじがものすごく怒ってたからだ。ぼくとたっくんは、ただ見ていた。

 こうじがひっかいたら かっちゃんが本気になってつきとばしたから こうじは大声で泣きだした。


「はい、それまで!」 島先生の目が怖かった。


 かっちゃんとぼくとたっくんは 床も絵の具と水でぐちょぐちょにしてしまったので、ホール中をぞうきんがけさせられた。とっても時間がかかって、へとへとになった。


 きれいにしてから 先生の部屋に呼ばれて叱られた。

「おともだちのの作品は大切にしなくてはいけない、それに 自分の作品も」


3にんとも 顔も体も絵の具だらけでインディアンみたいだった。

洗い場で 体を洗ったら 泥水みたいな水が流れた。

「外で遊びたいなー。」たっくんがため息ついてる。

 ほんとだよ、雨が降るとつまんない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る