吉本真央 ⑧

昼食を摂ってすぐ眠ってしまっていたようだ。

食事の載った盆は既にさげられていた。

時計を見るともう暮れ合い。

私は欠伸をしながら、サイドボードの上のスマートフォンに手を伸ばした。

一週間も気を失っていて確認ができなかったので、さぞかし通知が溜まっていることだろう。

するとパタパタと廊下を走る音が聞こえ、引き戸が勢いよく開いた。


「真央!!起きてる!?」


ポニーテールとスクールバッグにつけたミッティーマウスを揺らしながら、息を切らした彩美が現れた。


「来てくれたんだね、彩美。昨日やっと目を覚ましたの。」


「よかったぁ…、マジで死んじゃったかと思った」


彩美は早速ベッドサイドの丸椅子に座って、山吹色のエナメルが塗られた指先を眺めながら続ける。


「そういえばさ、先週佐野が学校に来たんだよ。ていうか、病室のテレビって課金しなきゃ観れないの?ケッチィ〜〜」


彼女は不満気にテレビのリモコンを弄る。


その隣で私は一週間振りにスマートフォンの

電源を入れ、SNSを開く。


「まだ悪口言ってるのね。」


佐野くんのことなどもうどうでもよくなっていたが、一応ブックマークをつける。


縦にずらりと並んだブックマーク。

ほとんどが佐野くんの投稿だ。


「やば、もうこんな時間?」


窓の外をちらりと見て彩美が言う。

群青色だった。


「あたし帰んなきゃ。ここじゃテレビも観れないし。」


座っていた椅子とリモコンを片付け、荷物をまとめ始める。

本当に、育ちが良いのか悪いのか判らない人だ。


「じゃ、帰るね。早く怪我治しなよ〜!」


彩美が手を振っている。

SNSも見終わったし、退屈な時間が帰ってきた。

夕食の時間まではあと数十分か。

もうすぐ入院生活も終わるはず。

彩美が私に買ってきた果汁20%のオレンジジュースを飲み、また目を閉じる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る