とどめをさせ!
この音に俺は聞き覚えがある。
これは俺が人生の岐路に立った場面で必ず聞こえてくる声――
その刹那、俺がこれまで感じていた違和感の正体を掴めたような気がした。
この所有者の魔力を吸い尽くそうとする禍々しい程の威力。
明らかに人間が扱う杖とは違うこの感じ。
そう――
これは魔女の杖。
俺が男に生まれたばかりに、魔女を継承することが叶わずにただの棒きれと化してしまった、死んだ母さんの杖に似ているんだ。
だが、なぜそれがここにある?
あれは王都を離れるときに、母さんが自らの手で土に還したはずなんだ。
「ぐはぁあああぁぁぁぁ――――……」
杖の魔石から放たれた閃光は、勇者の剣から放たれた衝撃波を物ともせず、ロベルトの身体を吹き飛ばす。
勇者の鎧がなければ即死は免れぬ状況だったであろうが、曲がりなりにも彼は勇者。観衆を守るための結界障壁にバウンドし地面に落ちたロベルトは、やがてゆらりと立ち上がる。
「く、くそ……今のはセシル、キミの魔法なのか? そんな魔法が使えることを俺たちに隠していたというのか?」
「いいえ違います。この力はレンさんのものです!」
「レン!? そんな馬鹿なことがあるか……」
「あなたはパーティ発足当時から一緒にいた仲間であるレンさんのことを、本当に何も見ていなかったんですね?」
「いや、しかし……レンが魔力ゼロの男であることは確認済みだ!」
「ロベルトさん? 人は日々成長するものなんですよ? そういう私だって……レンさんに魔力の扱い方を教えていただいて、変わることができたんです! この杖と共に!」
セシルが杖を両手で構えると、再び魔石が光り出す。
「エンチャント――神鬼爆裂――!!」
杖の先端に光の球が浮かび上がり、一瞬のうちにロベルトの鎧の中に入り込み、内部から破裂させる。
立ちこめた土煙に視界は遮られたが、それがやがて晴れると、息も絶え絶えとなり横たわった男の姿が現れた。
「えっ……私、今なにを……?」
ハッと気がついたセシルは、腰が抜けたようにぺたんとその場に座り込んでしまう。
そんな彼女を支える杖の魔石が、ゆらゆらと青い光を放って、俺に語りかけてくる。
<<とどめをさせ とどめをさせ とどめをさせ とどめをさせ>>
俺は嘆息する。
ふざけるな。
それは俺が判断することだ。
「すまんセシル……変なことに巻き込んじまったな……」
「レンさん……」
後ろから抱きしめると、セシルの肩の震えが止まった。
「フレア、撤収するぞ!!」
屋根の上に向かって叫ぶと、次の瞬間には首輪に繋がれた鎖が、俺とセシルの身体を空中に引っ張り上げていった。
眼下の観衆からは、俺たちが消えたように見えたのだろう。どよめきが広がる割には、上空を見上げるものは見当たらない。
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