戦闘フィールドに響く声
「やーやー、オレっちは街一番の品揃えが自慢の道具屋ハックルベリアの店随一の優秀な働き手、そしてもの作りの天才、リズだぜ! 今からこの魔道具を使って戦闘フィールドをバリアで囲むゼェェェーッ! 巻き込まれたくない者は下がれー!」
声も高らかに宣告したリズは、手のひらに乗るほどの大きさの球状の物体を頭上に掲げる。
そのタイミングに合わせて、俺は屋根の上に合図を送る。
するとリズの足元に青い光の輪が現れて、それがスーッと大きく広がっていき、観衆の足元の手前で止まった。
「その線を越えた者には命の保証はないぜッ。これから始まる男同士の決闘に巻き込まれたくなかったら、それ以上近づくんじゃなないぜーッ!」
リズの言葉に呼応するように、半透明な壁が四階建ての建物の高さを遙かに越えて立ち上っていく。
冷静に考えると、これほど大規模なバリアを展開するには、多人数の宮廷魔道士レベルが必要だ。
だが、リズの迫真の演技にころっと騙された観衆は、それが彼女の持つ魔道具の効果であると思い込まされたのだ。
リズが得意げな顔を俺に向け、親指を立てて見せた。
ああ、わかってるって。騒動が落ち着いたらフレアをこっそり店に連れて行くからよ。
「どうやったか知らんが、ずいぶん大袈裟な仕掛けを施したもんだな。だが、これでお前を思う存分痛めつけてから殺すことができる! ぐふふふふふふふ……」
ロベルトが剣を抜いた。
刃先からは禍々しいまでの黒い霧のようなものが揺らめいている。
俺、これほどまでの恨みを買った覚えはないんだけど?
まあ、いいさ。
もう俺には関係のないことだ。
俺は短剣を抜き、片方の手でリズに合図を送る。
「んじゃ、そろそろ決闘を始めるから、あんたも安全な場所に下がっていてくれ。巻き添えを食わないように俺のツレが守ってくれるはずだ」
「なあ、おっちゃん……オレっちとの約束を果たすまでは死ぬなよ?」
「ああ。ちゃんと約束は守るさ」
たが、死なないという約束の方は守れそうもない。
この後、俺とロベルトが剣を交えたその瞬間に、雷が二人を直撃して俺達は消し炭になるという筋書きなのだから――
この場にいる誰もが想像し得ない結末。
俺がフレアのペットである限り、俺はどんな目に遭おうとも死ぬことはないという魔女の盟約を利用したこの作戦――
うまくいくかどうかは、神のみぞ知るってヤツだ。
ユニドナの街に暗雲が立ちこめる。だが、この期に及んで空の様子を見ようなんて物好きは一人もいない。
皆、勇者による悪者の粛正というドラマチックな瞬間を見逃すまいと、半透明の壁越しに好奇の視線を向けてくる。
ピンク色の作業服がフィールドの端に溶け込むのを見届けた俺は、短剣を両手に持ち替えると、興奮した観衆の声が、結界障壁を隔てたことによって少しこもった音となって聞こえてくる。
「行くぞ! ロベルト!」
「来い! レン!」
互いに足を踏ん張ったそのとき――
「待ってぇぇぇェェェェェェ――――ッ!!」
セシルの叫び声が戦闘フィールドに響いた。
「「――――!?」」
視線を向けたその先に、自分の背丈よりも長い杖を両手に持ち、本来の神官服姿に戻ったセシルが、結界障壁の手前側に立っていたのである。
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