立会人はピンク色
ギルド前の大通りには、俺とロベルトの周りを取り囲むように人だかりができている。魔女殺しの英雄である勇者と、そのパーティを追放された荷物持ちの男による対決――要するに一方的に俺がやられるところを一目見ようと集まった野次馬の集まりだ。
おっさんが勇者の剣に刺されるところをそんなに見たいのか?
おまえら、悪趣味にも程があるだろ!
おいおい、ガキまで見ているじゃねぇか!
親は何を考えているんだ?
呆れた表情で肩をすくめると、それがふてぶてしい態度と思われたようで、観衆の興奮のボルテージがますます上がっていく。
つくづくこの街の連中とはそりが合わない。
いや、違うか――
俺は前世から一度だって、周りと上手くやれたことはなかったよな――
「では、このわたしがこの決闘の立会人になりましょう。双方、よろしいかな?」
ギルドマスターのジンバが誓約書を持ってやってきた。
国の法律により、決闘の際には双方の血判による誓約書を作ることが義務づけられている。逆手に取れば、これさえあればどんな殺人でも合法化される訳だ。
「だめだ!」
だが俺はその申し出を拒絶する。
「何だレン? この期に及んで怖じ気づいたか?」
ロベルトが鼻で笑った。
「誓約書は書く。だが立会人は他の者に代えてもらいたい。そもそもギルドマスターはそっち側の人間だから、中立の立場じゃねーだろ?」
「ほぅ……。どのみち勇者様の一太刀で死ぬ運命にあるのだから、立会人が誰であろうが変わりあるまいが……まあいい。ならば貴様が立会人を選ぶがいいさ」
「んじゃ、俺はあのピンク色の
「ほぅ……んん!?」
俺が指差す先には、ピンク色の作業着姿のリズがいる。
彼女はハックルベリアで働く技術屋であり、ジンバの娘でもある。
「なっ……ど、どうして娘がここに?」
そりゃ、これだけ騒ぎになっていたら、店をほったらかしにしても見に来ることもあるだろうよ。
それにしても、自分の娘の顔を見たとたんに、ジンバが妙に動揺しはじめるのには何か理由があるのだろうか?
「やーやー、誰かと思えば女の尻を追っかけていた変態のおっちゃんじゃ――うぷッ!?」
俺は慌てて余計な混乱を招きそうな事を言い出したその口をふさぎ、事のあらましを説明した。
それを聞いたリズはケタケタと笑い出す。
「あー、それは災難だったねぇ。オレっちのパパは仕事のできる男だけど、ちょっと思い込みが激しいところがあるからねぇ……」
「……それをお前が言うか?」
血は争えないということだな。
「で、オレっちに立会人を頼むぐらいだから、おっちゃんには何か考えがあるんだろ? オレっちにできることなら、何でも条件次第でやってやんぜ?」
よし、話が早くて助かる。
「今から俺のツレに結界障壁を張らせたいんだが、それを魔法ではなく魔道具の効果という演技をして欲しいんだ」
「ああ、ダンジョン攻略用のシェルターを使ったことにするのかい? ふっふっふ~、騎士流の決闘に仲間の魔法を使うとはぁ~、おっちゃんも悪よのぉ~、ふっふっふ~」
「いやいや、結界障壁で防御するのは俺ではなく、観衆の方だ」
「ふぇ!?」
「ここで観衆を巻き込んじまうと、俺は正真正銘のヒールになっちまうからな。さすがにそれはキッツい……。協力してくれるのなら、騒動が落ち着いた頃にツレをお前の店に寄こすから。魔道具の燃料に使いたいんだろ?」
「おっふぅー……参ったな……おっちゃんのツレはこれだけの観衆を覆うほどのバリアを展開できるというのかい? 一体あの小さな体にどれほどの魔力を持っているというんだ。それではまるで魔女――」
リズはハッと息を飲み、観衆に視線を走らせる。
だが、どんなに探しても漆黒のローブを着た少女の姿は見つけられるはずはない。
金色の髪がたなびくその場所は、その視線の遙か上――ギルドの屋根の上である。
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