悪酔いする女

 まあ、別に俺はふざけていた訳でもなく、ただ言われたとおりに回復薬ポーションを飲ませただけなんだがな。それを真剣じゃないと言われても困ってしまう。


「ごめんごめん、今度はちゃんと真剣にやるから許してくれ」


 俺は肩をすぼめて降参のポーズをとった。

 おっさんの流儀〝ひとまず謝っておく〟だ。


 すると、セシルは少し機嫌を取り戻した様子で、


「本当ですね? じゃあ……」


 と言って、クルッと背中を向けて俺に身を委ねてくる。  


 俺の手の中でガラス瓶の中の液体はピンク色に輝いている。

 セシルに手を握られたことにより、俺の体に彼女の魔力マナが注がれて、それが再び液体の中に溶け込んでいるからだ。

 だがこの光は俺にしか見えていない。


 セシルの唇に瓶の口を当て、ゆっくりと注ぎ込む。  

 こくこくと飲みこまれていく魔力の光を放つその液体は、食道を通りやがて胃へと落ちていく。

 光は胃壁の内側に集まり、やがて身体全体へと浸透していく。

 その様子が俺の目には肉体も繊維も、プロテクターの鉄板ですらも透過して見えるのだ。


「っ、くふぅ~」


 セシルは濡れた唇に指を当て、なんとも艶めかしく息を漏らす。

 しかも、とろんとした目で俺を見上げて、


「これこれ、これですよぅ~、レンさんのポーションの味はぁ~、えへへへ……」


「セ、セシル……お前やっぱり酔っ払っているのか!」


 同じ現象が二度続けば、それはもう偶然ではないだろう。セシルは俺の特製回復薬スーパーポーションを飲むと酒に酔ったような状態になるんだ。

 

 彼女が魔法の使い手だから?

 いや、これまでにも何人もの魔道士に飲ませてきたが、いずれも体力の回復と自然治癒力の増強の効果しか表れなかった。

 

 なぜセシルだけ反応が違うんだ?


「うへへへ~、あたしはだいじょ~ぶれふよぅ~」


「いや、ぜんぜん大丈夫そうには見えねーんだけどな……」


 セシルは俺の心配をよそに、ヘラヘラと笑いながら床に転がっていた自分の杖を拾う。


 彼女の身長よりも長い杖は、先端が大きく円形に曲がり、その中央に青い魔石が浮いている不思議な構造をしている。

 ん~。初めはこんな形していなかったはずなんだけどな。


「あ~、あたし、いーことを思いつきまひた~。ひょっとまっててくらはいね~」


 そう言い残し、千鳥足でロベルトの方へ歩いて行く。 

 呆然とした表情のロベルトは、彼女の変わりようにまだ頭が追いついていないようだ。


「セ、セシル? キミはいったいどうしたんだ?」


「私に触らないでください!」


 差し伸べた彼の手を、セシルの手がパシンと弾いた。


「ロベルトさぁ~ん。あなた勇者だか何だかしらないけどぅ~、レンさんを~、いじめるぅ~、悪い人はぁ~」


 杖の先を天井に向ける。


「私がお仕置きしてあげます!!」


 杖の魔石が輝を放つ。


 はっ!?




「エンチャント――神鬼爆裂――!!」




 あろうことか、一切の魔法の使用を禁じられているギルドの建物内で、ロベルトに向かって攻撃系魔法を放ったのだ。


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