リズ
こんな大きな店を任されているぐらいだから、二十歳を少し超えたぐらいの年齢だろうか。青年というにはやや線の細いその少年は、作業用の革手袋でパタパタと顔を扇ぎなから『ふうーっ』と息を吐いてから、また爽やかに笑いかけてきた。
「街一番の品揃えが自慢の道具屋〝ハックルベリアの店〟へようこそ! オレっちはこの店随一の優秀な働き手、そしてもの作りの天才、リズだぜ! で、おっちゃんは何が欲しいんだい? 言ってくれれば何でも作ってやるぜッ!」
「女神官だッ」
思わず食い気味に口を滑らせてしまうと、リズの表情は一瞬にして氷のように固まった。
しかもなぜかこのタイミングで、フレアの頭からナベが滑り落ち、店内に派手な音が鳴り響いたというおまけ付きだ。
「お客さん……うちは真っ当な道具屋なんで、そんな商売はやっていないぜ?」
「い、いや、そうじゃなくて……女神官がこの店に来たはずなんだが……俺はその女のことを追っかけているんだ!」
「女の敵かッ――」
リズはガバッと奥の壁に駆け寄り、ハンドルをクルクル回し始める。
ジリジリとベルの音がなり、壁の穴から男の声が小さく聞こえた。
『はいこちら警備隊。事件ですか、事故ですか?』
「事件だぜ! いまうちの店に男が――ブガッ」
俺は咄嗟にリズの背後から口を押さえて、壁の装置から遠ざける。
「フガーッ、フガーッ、――やめろ女の敵めぇぇぇー!!」
「ちがう! お前は誤解してい――グハッ」
リズの肘が俺の腹を打つ。
何とか止めないと。
これ以上厄介事に巻き込まれるのは嫌だ。
「大人しくしやがれェェェーッ!」
俺は首と胸に手を回したまま、腕に力を込めてリズの体を持ち上げる。
見た目通りに軽い体は、ふわりと持ち上がった。
するとリズの頭のバンダナがひらりと解け、栗色の長い髪が舞い上がり――
んん?
長い髪が?
それから少し遅れて、リズの胸に回した俺の手から脳に信号が送られてくる。
柔らかいという感触が――
「…………?」
「離せェェェーッ、この女の敵がァァァー!!」
リズの肘が俺の顔面に入り、俺はそのまま後頭部を床に打ち付け、その上からリズの背中が押し付けられた。
「うわわっ、大丈夫かおっちゃん!? いくら女の敵だからって、オレっちの店の中で死なれちゃあ、困るからなーッ?」
「レンは死なないの。わたしがいるから絶対に死なないの」
「あんたこの男のツレかい? もしや、何か弱みを握られて連れて回られているんじゃないかい?」
「レンとわたしは鎖で繋がれているの……」
「カーッ! やっぱりそうか! 待ってろ、すぐあんたを自由にしてやるからよ!」
フレアよ……
頼むから話をこれ以上ややこしくしないでくれ……
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