約束
俺とフレアの身体は複雑な回転をしながら上空に吹き上げられていく。
意識が遠のいた瞬間、俺はフレアから手を離してしまい、森の遙か上空で一人きりになってしまった。
眼下には広大な森。
川と湖。
遠くに見えるのは、パーティが最後に立ち寄った街並みか――
セシルは無事に街へ戻れたのだろうか。それともまだ森の中だろうか。
どうか、俺の分まで長生きをして、人並みの幸せを掴んでくれ。
フレアには勢いで魔力制御の練習相手になってやるなんて大口をたたいてしまったが、そもそも俺はそんな器ではなかったのだ。
こうして空中に放り出されたぐらいのことで死ぬのだから。
少しでも期待させていたとしたら、本当にすまないことをした。
地上が迫ってくる――
せめてこの体に僅かでも
地面に叩き付けられて全身打撲による死か、枝にぶつかり内臓破裂か。
死と隣り合わせの冒険者稼業に就いて、日々生き残るのに精一杯な生活だったけれど、心の奥底で自分だけは死なないと思っていた。
それがどうだ。
死の瞬間というものは、こうもあっさりとやって来る。
樹海の海原へ突入――
足が枝に激突して身体が反転。
背中に枝葉が次々とぶち当たる。
もちろんこのぐらいで落下の速度は変わらない。
最後は頭から地面に――と観念した俺だが、最後の瞬間は何か柔らかい感触の物に包まれた気がして、意識を手放した。
「レン! 早く起きるの! 大変なことが起きているの!」
フレアの声がする。
体を揺さぶられて、俺は意識を完全に取り戻した。
「フレア……お前が俺を助けてくれたのか?」
「レン、約束したから……わたしを助けてくれるって……」
「そうか……」
ちゃんと俺の気持ちは届いていたのか。
九死に一生を得た安堵感の一方で、場の勢いで魔力制御の練習相手になってやると言ったことに対する罪悪感がじんわりと湧いてくる。
だが、そんなつまらない感傷に耽っている状況ではなかった。
俺たちの周りの景色が、地獄絵図と化していたのだ。
木々は強風に煽られ、枝葉や森の動物たちが一方向に流されていく。
「うほっ、一体何が起きているんだ?」
俺はフレアの魔法で張られた障壁結界で守られていた。
その分、周りの状況がすぐには気付かなかったんだ。
「わ、わからないの……わたしの力も吸い取られているの……」
「そんな馬鹿な……」
魔力を吸い取るなんざ、俺以外にできる奴などいるもんか!
しかも離れた所から?
だが、障壁結界がどんどん削られていく様子を見るに、それは事実らしい。
「ああっ……
巨体を誇る魔獣までも、次々と引きづられていく。
人間を寄せ付けぬフレアにとって、魔獣たちは唯一の大切な仲間だったのだろう。
ならば、一か八かの勝負に出てみるか……
「障壁結界を解いて、この先に何があるか確かめに行こうぜ!」
「えっ」
「俺とお前なら、どんな相手にも負けることはねーだろ?」
ああ……
俺はどこまでかっこつけな奴なんだろうか……
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