俺TEEEEEかも?
フレアが『いただきますなの』と言いながら指先をこちらに向けた瞬間、その指先が俺の左太ももに貫通した。
正確には俺の目にはそう見えただけで、これは幻影魔法と破壊魔法の組み合わせ技なのだろうが――
「――ぐはっ」
俺は膝を抱えて嗚咽を漏らした。
間髪入れずに俺のすぐ耳元で「あーんッ」という声が聞こえてきた。
慌てて顔を向けると、フレアが口をあんぐりと開けて、俺の頭に食い付く直前だった。
瞬間移動か!?
俺は何とかギリギリのタイミングで身体を後ろに逸らす。
ガチンと歯と歯が噛み合う音がした。
マジで喰う気満々かよ!
その回避行動があだとなり、俺は両肩を掴まれて地面に押し倒されてしまった。
フレアの目はまるで飢えた野獣のように血走り、俺という獲物を眼下に捉えている。
スーッと鼻から息を吸い込み、
「あんたはとても美味しそうな匂いがするの。だから、
あんぐりと口を開けて首筋にかぶりつこうとするフレア――
言っていることは熱烈な愛の告白のようにも聞こえるが、これはどう考えてもそんな状況ではない。
だが――
その時、俺の右手は彼女の手首を掴んでいた――
溢れんばかりの
すると何かを察知したフレアは、俺の手を振り払い、キンキンした金切り声を上げながら離れていく。
「キモいキモいキモいキモいキモい――――ッ」
わめき散らしながら、魔獣の足のふさふさな毛に手をこすりつけ始める魔女フレア。
俺とフレアを取り囲むようにしてじっと固まっていた魔獣たちも、心なしか困り顔だ。
「…………」
おい、お前。『キモい』なんて言葉をどこで覚えた?
中身は魔女とはいえ、見た目10台半ばの美少女にそんな反応されると、オジサンちょっとショックだぜ!
「フーッ、フーッ……あんた、どうして乙女の手を許可なく握ったの~!?」
「いや、俺は手は握っていない。握ったのは手首だ!」
こんな時につい要らない訂正をしてしまうのは、オッサン特有の危機管理能力の弊害というやつか。
それにしても、先ほどまでのフレアの姿は乙女などでなく野獣そのものだったのに、今は正気を取り戻している。
一体、どういうことだ?
「一つ訊いていいか? お前は王国の使者をこれまでも喰ったのか?」
「使者? ……それ美味しいの?」
「いや、食べもんじゃねーから。お前と協力関係を結ぶために、国王が遣わした人間のことだ」
「わたしは人間は食べないの」
「はぁーっ!? お前、言ってることとやってることが違いすぎるだろ!」
「わたしは…………」
何かを言いかけたその時、魔女の身体に広がっていた
吊り上がり気味の目は血走り、半開きになった口からはよだれがこぼれ落ちる。
そして――
「いただきますなの!」
再び、指先を俺に向ける。
フレアは俺の右太ももに向けて破壊魔法を撃ってきたが、今の俺には効かない。
それどころか、前に撃たれた左太ももは完治している。
「なぜ倒れないの? 人間のくせに、わたしの魔法が効かないの? なら……これならどうなの!?」
フレアは杖を天に向けた。すると、魔獣たちがわらわらと俺から距離を置くように散っていく。
「キモい人間、消し炭になれ!」
息をするように魔法を使いこなせる魔女にとっては、呪文の詠唱などお飾りみたいなものなのだろう。次の瞬間、俺は頭上から降ってきた火の柱に包み込まれたのだ。
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