第39話 暗黒騎士、便りが届く

帰り道、もはや最初の服の色も分からないくらい真っ赤な太陽状態だった勇者少女を近くの湖で洗い流し(「私が洗いました」by魔女)、

夫人に怒られないように証拠隠滅を果たした暗黒騎士達一向は、向かった時と同じ様に召喚した魔導馬が引く馬車に揺られていた。


「二つ分かった事は、一つは実戦でも二人とも遺憾無く実力を出せていたという事」

「まぁ、よくよく考えてみましたら、お師様達の圧に普段から晒されてましたらあの程度の相手に怯む事もありませんでしたの」


暗黒騎士の言葉に貴族妹も頷く。

されど、その顔には慢心もなく今回の初の実戦を自分の中でしっかりと噛み締めているようだ。


「そうね、色々と今後の課題もなかった訳じゃないけど充分合格点よ。

 むしろ、二人ともここまで出来たのはこっちの想定外な位だし」


行きの時とは違って、帰りは一緒に乗り合わせている魔女はそんな一番弟子の頭を撫でる。


「二つ目は、この子は敵認定した相手への容赦がなさ過ぎるという事だな…」

「え〜〜っ…半端な事した方が後から怖くない?」

「理屈はあってるけど、お主、そういう見極め早熟過ぎない?

 我も夫人もそんな子に育てた覚えはありませんよ!」


最大の課題はこの線引きが想像を遥かに上回って極端な暴走系少女を立派な人に戻す事で、魔族もドン引きレベルの紙一重っぷりである。


「最近の流行りの童話でも取り寄せましょうか…」


普段は素直なので、ここまで闇が深いとは流石に分からなかった二人は改めて道徳を勉強させようと誓う。なお、こいつら魔族。


「そうだな……そろそろ村に着くが…ムッ、珍しい者が来ているな」


若干げんなりした様子で魔女に同意していた暗黒騎士は村の入り口に立つ人物に気がついた。

王都近隣で活動している配達人がそこに立ち尽くして困っている様子だった。

この辺境の漁村には珍しい顔触れなので、自ずと何かあったのかと声をかける。


「其処の者、何用か?」


巨大な騎馬に跨る漆黒の全身鎧の騎士に声をかけられて、ただの一般配達員は小さく声を漏らすが、おずおずと来訪理由を明かす。


「…え、えぇと、この村にお住まいの薬師の方にお便りがありまして…ただ、丁度ご不在と聞いてどうしたものかと」

「あら、あたし?」


それを聞いて、馬車から顔を出す魔女。

薬品の素材の調達等で偶に配達を依頼するのはこの村では彼女位である。


「おぉ、これは良かった! こちらに確認をお願い致します!」

「エェ、確かにあたし宛ね。 ありがとう」

「では、わたしはこれで」


魔女から小銭を受け取り、その場を去っていく配達員。

彼女は手紙を受け取ると、差出人の名前を確かめる。


「あら、面白い相手からの手紙よ」


内容を何処か嬉しそうに目で追っている魔女に、暗黒騎士と少女二人は心当たりを探してお互いに目を合わせる。


「剣士ちゃん。 彼、これから帰ってくるそうよ」


そんな三人に顔を上げた魔女はいつもより嬉しげに微笑んだ。


勇者歴13年(冬):剣士の帰還の知らせを受ける。

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