第34話 剣士、帰郷を決める

「…という訳なのだぁ」


1人ではぐれた後は各地を放浪するが、魔族なので人族からは迫害されるわ、避けられるわで碌に人里にも近寄れず、よくよく考えたら魔界の通貨はあるけど人界の通貨の持ち合わせもなかったので実質無一文。

道中で気のいい旅の一座に暫くは身を寄せていたけど、このままだと魔王じゃなくて芸王になっちゃうと気づいて旅の一座にも泣く泣く別れを告げて餞別に貰った覆面を手に帰路の旅を続けていた所で剣士と遭遇したらしい。


「旅の一座の辺りの話すげー気になるんだけど!?」


其処に食いついてしまう剣士、分からないでもない。


「フフフ…あやつらか、座長の綺麗な女性を笑わせるのが目標の」

「あ、やっぱいいです」


危険な香りがする。


「まぁ、それで1年間一人ぼっちだったのか、そいつは辛かったな…」

「分かるか…分かってくれるのか!! びぇぇぇぇぇ!!」


剣士の胸元に抱き着いて大泣きする魔族娘、鼻水が糸を引いている。

剣士といえば剣士で、(強制)禁欲生活で妹分と見た目だけなら同じ位の少女に抱き着かれて色々と抑えるのに大変になっているのだが。


「まぁ、落ち着け、な? 取り敢えずは故郷に帰りたいって事だろ?」

「うん、もう、どっかの知らんやつとかどうでもいい…おうちかえりたい」


主目的を忘れ果てた魔族娘を優しく引き剥がしつつ、剣士はそれを確認する。


「俺に当てがある。わざわざ、界の境界線を跨がなくてもいい方法でだ」

「そ、それは本当か! もう石投げられるのとか嫌だぞ!」

「お、おぅ、生で聞くと結構きついなそういうの…何かごめんな、俺らの種族が」


ぽんぽんと頭を撫でてやる剣士。

それに魔族娘は体全体を震わせて耳を尖らせている。


「お主、やはり我が臣下となれ! 今なら副官の席とか空いてるぞ!」

「お~、まぁ考えとくから」


剣士としては妹分を相手にしている時と同じ位の気軽な返答だったのだが、魔族娘の方は妙に高揚している事に気づかない難聴系男子。


「まぁ、こっから帰るとなるとやっぱり半年近くはかかるんだけどな…」


自分の生まれ故郷とはちょうど真逆の位置に来ていた剣士はこれからの旅の同席者の事を考えつつ、帰ったらどう説明しようかと頭を悩ませるのだった。


勇者歴13年:剣士、魔族娘と故郷へ帰る事にする。

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