第21話 淫魔女王、すれ違う

淫魔女王から告げられた話に対して、暗黒騎士はかつての友の事を思い浮かべる。

共に育った故郷、共に直走った戦場、共に築き上げた様々な戦果。

哀しみはないかと聞かれれば、それは嘘になるが今の気持ちとしては別である。


「そうか、精霊王の奴は上手くやったな。いや、今は新たに魔王を襲名したのか」

「エェ、今は人界侵攻に備えた軍備の増強や内政の改革を行なってるわ」


魔族とは実力主義だ。

今の魔王が一枚上手だっただけで、誰が悪いという話ではない。

屍の山を築いてきたのはお互い様で、明日には自らがその山の一部になっていたとしても文句は言えないのだ。


「まぁ、脳筋の竜王なんかは『小細工を弄した相手に従う理由はない!』って中立の立場取ってるし、其処はあたしも一緒だけどね」

「ん、四天王の立場はどうした?」


中立と告げた淫魔女王に暗黒騎士が首を傾げる。


「ダーリンが抜けた後にあたし達も抜けたんだけど、それも知らなかったの!?」

「エッ、我も知らない間に除籍されてたの!?」


本人としては「磯○ー、野球しようぜー」位の軽い気持ちで出て行ってたのでそんな事になってた事に驚く暗黒騎士。

なるんです、普通は。


「な、何かダーリンに抱いてた『堅物で融通効かないけど、いざって時に頼りになる騎士様』イメージが音を立てて崩れていくんだけど…」

「我に言われても困るんだが」


淫魔女王は勝手に精神的ショックを受けているが、暗黒騎士としても何か変えてるわけではないので不本意である。

こっちが素なので仕方ない。


「取り敢えず、今はダーリンの知ってる四天王は誰もいないし、魔界の情勢も大分変化してるの。ここまではOK?」

「お、桶? ……了解だ」


大変な事になってきたなーと他人行儀に思う暗黒騎士。お前は当事者だ。

何も言わないが若干生ぬるい視線になり始めた淫魔女王に据わりの悪さを感じ始める程度には自分のやらかしに気づいてはいた。


「そ、それで始めの話に戻すのであるが」


ここで起死回生の話題のすり替えに走る暗黒騎士。


「あぁ、この娘達に魔術を教えるって話だったのよね、そういえば」


まんまと作戦が成功して内心でほくそ笑む。


「それはいいんだけど、場所はどうするの? ここだと今の魔王軍の連中も割と遊びに来るから人間には危なっかしいわよ?」


淫魔女王からの当たり前の指摘に暗黒騎士は腕を組む。 そこまで考えてなかった。

暫く考えを巡らして、暗黒騎士は閃いて手を叩く。


「ならば淫魔女王よ、我の所に来ないか?」

「エッ、それって……ダ、ダーリン!?」


うちで場所作れないかと言う意味の暗黒騎士。

嫁に来ないかと捉えた淫魔女王。


悲しきすれ違い。


「こ、子供は何人が良いかしら…」

「子供は3人(勇者少女、弟子、貴族妹)で充分だが?」

「3人、3人はイケるのね、ヨッシャ!」

「エッ、何? こわっ」


急にクネクネしだしたり、ガッツポーズ取ったりする淫魔女王に不安になる暗黒騎士。

気づいてやれよ。


「まぁ、この後の事は夜のお楽しみとして、今のダーリンの住処って何処なの?」

「夜に何が…う、うむ、転移石があるのでお主も一緒に案内しよう。 その前に娘達を起こすか」


暗黒騎士は少女2人を揺さぶり起こし、まだ眠い目を擦る2人と淫魔女王を傍に置いて転移石を掲げる。

来た時と同じ様に光の球体に包まれて飛んでいく4人が次に目を開けば暗黒騎士達3人には見慣れた光景に変化している。


「ちょっと、ここ何処!? まさか人界!?」


慌てる淫魔女王の姿に暗黒騎士はデジャブを覚えていたのだった。


勇者歴8年:役者が村に揃う。

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