第2話 暗黒騎士、蹂躙する。

後に勇者と呼ばれる英雄が生まれる地にて。


「いや、そうじゃねぇですって。こっちの網はそこに繋いでくだせぇ」

「ムッ、ここか?」


後に勇者の父親となる漁師と一緒に暗黒騎士は漁に出ていた。

夫婦に懐妊を告げた暗黒騎士は長らく不妊に悩んでいた夫婦にとって救世主のごとく祭り上げられ、まだ産まれていないならばこの地を一旦は離れようとした暗黒騎士を引き止め客人として招き入れていた。

夫婦は気兼ねなく招待に応じてほしいと願い出たが、この男はこの男で無駄に義理堅い男。

ただ飯、ただ宿など以ての外。

そうすると迫る夫婦と断り続ける暗黒騎士の間で堂々巡りが続き、妥協案として身重のいる家の生計の足しを自ら願い出たのである。


「成程な、武術とはまた違う技の極みがあるな」


網を船にくくりつけながら感心した声を漏らす。


「やっとぅの事は分からねぇすけど、うちは先祖代々こうやって食ってましたからねぇ」


朗らかな様子で夫は堅苦しい暗黒騎士に返答する。


「こうやって矮小なるモノを一括りに始末するか…実に容易いものだ」


その日はそこそこの漁獲量であった。


勇者歴0年(春):暗黒騎士、(魚を)蹂躙する

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