戦闘前に回復してくれる系ラスト前の中ボスが最初から最後までずっと居る

@akinu2

暗黒騎士、勇者育成編(育児含む)

第1話 暗黒騎士、闘いを求める

魔王軍最強と名高い暗黒騎士。

彼はその強さにより、既に敵無しとまで呼ばれていた。

しかし、それが彼にとっては苦痛だった。

求めるは強者との闘い、だが、その肝心の相手がいない。


彼は闘いに飢えていた。


そんなある日、魔王軍内である予言が伝わるようになる。


『遠き東の果ての地に勇者現れ、我ら魔族を脅かさん』


他の者は一笑に伏したが、彼はそれに一縷の望みを託した。

孤軍にて、東の果てを目指したのである。


そして…


「我は西の地にて武芸を極めし者! この地に勇者なる者が現れたと聞いて馳せ参じた!

是非お相手願いたい」


自慢の大剣を杖の様に構えながら叫ぶ。


「いや、そっだらごど言われでも、うちにそんな大層なお人はおりませんで」


是非もなかった。

閑散とした漁村、対峙した小刻みに震える身体の老人(恐怖からではなくただの老化による)は申し訳なさそうに頭を下げる。

暗黒騎士を何処かの偉い人だと思っているらしい。

ちなみに普段は耳が遠く「あぁ?あんだってぇ?」と聞き返すのが常だが声がデカいのでよく聞き取れるようだ。


「何!? ならばこの村で一番若い者はどちらに居る!」

「はぁ、そんならば奥の家の若ぇ夫婦ですな」

「感謝する!」


暗黒騎士は焦っていた。

最早これより東には海しかあらず、他に宛てもなし。


「頼もう!」


岬に近い一軒家の前で声を張り上げる。

どたどたと中より慌てた様子の音が響き、


「はぁい、どちらさまですかぁ?」


穏やかな様子で戸を開けた女性が戸口に立つ異様な騎士に気づくが、

相手の要件が分からないのでそのまま硬直してしまう。

一方の暗黒騎士といえば己の鍛え上げた慧眼から、この女性が目的の剛の者ではないと見抜くがそれ以上に困った事に気づいてしまう。

居間からこちらの様子を不審そうに窺う夫と思える若い男性も覇気を感じない。

いや、漁師らしく引き締められた体ではあるが、それだけだ。


「これはどうしたことか…これより東の果ては聞いたこともなし」


困惑した声を漏らすも、先程から意味も分からず戸口に立ち続けられている夫婦にとってもいい迷惑である。


「あのぉ、どういうご用件でしょうか?」


おずおずといった様子で妻の方が声をかける。

夫の方も妻の傍に寄り添っている。


この仲睦まじき夫婦を見て、ここで天啓を得る。


「そなた達に子はいるか?」


つまり、この夫婦の子供こそが後の脅威であると。


「…いえ、それが中々恵まれず」


普通に落ち込ませてしまった。

陰りのある表情の妻を抱き寄せつつ、何なんだあんたという抗議の目を向ける夫。

至極ご尤もである。


しかし、ここで更なる天啓を得る。なお、魔族である。


「生命探知!!」


あらゆる生物の気を見抜く、武の境地の一つ。


「奥様…お目出度です」

「あなた!」「おまえ!」


暗黒騎士は妻の腹の中に新たな生命の息吹を見たのである。

喜びを分かち合う夫婦を見て、うんうんと頷く暗黒騎士。


勇者歴0年:暗黒騎士、勇者の誕生の地に現る(誕生前に)。

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