ビジネスの寄生虫

あやえる

第1話

 ネットワークビジネス。


 この言葉を聞いて、良いイメージを持つ人は少ないだろう。


 俺もそうだった。


 でも、俺はネットワークビジネスで成功した。


 想像以上の収入や人脈、経験が出来た。


 世の中、色んな人間がいる。


 生きる為には、働かなくてはいけない。


 どんな仕事にだって需要と供給がある。


 自分の仕事に誇りを持ったりしなくていい。


 生きてゆく為の手段。


 ただ、それだけの事だ。


ーーーーーー

 

 ネットワークビジネスは、大体の人間は知り合いからまるで宗教や選挙活動やねずみ講の様に勧誘される。


 俺は違った。俺とネットワークビジネスとの出会いは二十三歳の時だった。


 俺は元々地方から大学進学の為に上京して来た。親元から離れ、ある意味「自由」を手にした俺は、サークルには入らず、授業以外は、ゼミの課題かバイトの毎日だった。

 ゼミ仲間がパチンコとか麻雀が好きな奴らで、ほぼ毎日ギャンブルをしていた。そのまま就職活動の時期が来た。周りが、インターン活動や卒論だのでピリピリと活動的になっている中、相変わらず悪友達とつるんで、ただなんとなく、生きていた。

「収入があれば生きていけるじゃん。何をそんなに、皆して前習えしてんだよ。気持ちわりぃ。」


 俺は、皆して同じ様な黒いスーツと同じ文言で就職活動をしている事に違和感や気持ち悪ささえ感じていた。


 そのまま就職先も見つかる事なく、大学を卒業し、学生時代から続けているネットカフェのバイトと、暇な時間はギャンブルの毎日となった。

 

 就職活動もしてない。学生時代から続けているバイトだ。もちろん、バイト先の店長から「正社員にならないか」と声を何回もかけられたが、俺はその都度断った。


 バイトは、シフトとタイムカードで働ける。社員なんて、みなし残業と休日出勤と謎の責任ばかりじゃないか。目が充血していて、風呂にまともに入れてるかわからない店長を見ていてると、とても社員になりたいとは思えない。

 バイトでも社保には入れてるし、有給もある。今は社員でも退職金が出ない企業がほとんどだ。ならバイトの方が時間が自由で稼げる、と思ったからフリーターで生活していた。

 大学を卒業してから半年位経った九月半ば。その日俺は、バイト先の飲み会で終電で帰っていた。上京し都内に住んでいたとはいえ、賃貸アパートの多い下町の様な所に住んでいる。

 最寄りの駅に着くと、近所の公園のベンチで女性が寝ていた。こんな夜中に、しかもかなりの薄着。流石にこのまま放置したら危ないだろうと思い、俺は思わず女性に声を掛けた。

「あの、ここで寝てたら危ないですよ?大丈夫ですか?」

 すると、女性は薄っすらと目を開けて俺を見つめてきた。年齢は二十代後半から三十代くらいだろうか?そこそこ綺麗な女性だった。そのまま女性が上半身を起こし、俺に抱きついてきた。思わず胸が高鳴った。

「うっ……うぇええぇ。」

 高鳴る俺を裏切るかの如く、女性は俺の胸に吐いた。動揺し、うろたえていたら、俺は気がついた。かなり女性は酒臭かった。

「うわっ!まじかよ!最悪!」

「す……すみません。おぇえ。」

 女性は謝りながらもまた吐いた。どんだけ吐くんだよ、この人! 

 とりあえず俺は、女性を体から引き離し、ベンチに座らせた。公園内の入口に自販機があったのでそこでミネラルウォーターを二本買った。一本は自分の服を流す用。女性の所へ戻り、

「とりあえず、水、飲んで下さい。」

もう一本のミネラルウォーターを女性に渡した。

「ありがとうございます。」

 女性はミネラルウォーターを口に含むと、そのままその水を地面に吐き出した。ドン引いている俺を横目に彼女は続けた。

「本当にすみませんでした。実は、かなり酔っていて。」

「……でしょうね。」

「……その、歩けないので。 家まで送っていただけませんか。 」

 女性が俺に言った。 確かにこんな夜中に酔っ払った薄着の女性をここに放置するのは胸が痛い。俺は、女性に言われるままに彼女を家まで送ることにした 。


 家の前まで着くと、そこは賃貸アパートでだった。女性は俺におぶられながら、自分の鞄から鍵を取り出し、扉を開ける。 俺は玄関の前で女性を降ろそうとしたが女性は、

「このまま風呂場まで運んで下さい。……あなたもその服じゃ帰れないでしょ?洗濯しますから、その間、シャワーも使ってください。」


 俺は生まれてから今まで彼女が出来たことがない。もちろん、女性の部屋に行ったことなど一度もない。初めて入る女性の部屋は、当たり前だが一人暮らしの俺の部屋と俺と全然違かった 。

 女性は 俺の背中から降りて、服を脱ぎ出した。……この人、動けないとか言っておいて、動けるじゃねぇか!

 動揺している俺を横目に女性は言った。

「あなたも脱がないの?洗濯機回したいんだけど。」

 動揺して固まっている俺を横目に女性は近づいてきて、俺の服を脱がせてきてた。頭おかしいんじゃないか?!この人?!


 疑いつつも……もちろん、 そのまま風呂場で俺は彼女と。

 まあ……しますよね。俺の初めてコレかよ!いや、悪くはなかったんだけどさ。


 どうやら彼女はその日、恋人に浮気をされて振られたらしい。それで自暴自棄となり、一人で飲んで潰れていたそうだ。その恋人がネットワークビジネスをやっていて、浮気相手はそのフロントだった。そして案の定、彼女もネットワークビジネスをやっていた。部屋を見渡せば不自然なまでに変な化粧品やら、洗剤やら、サプリメントやプロテインがまるで几帳面という訳ではなく、あたかも「店のサンプル」や「試供品」の様に飾られているかのように置いてあった。

 

 これが、俺とネットワークビジネスとの出会いだった。

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