176話―骸殺しの魔法
ビレーテ、アルーのコンビを撃破したアゼルたち。宮殿の地下へと進み、迷宮の深層へと向かう。地下牢の奥、行き止まりの部分に大きな扉があった。
扉を開けると、その先には一面の闇が広がっている。試しに明かりを灯す魔法を使ってみるも、瞬く間に闇に吸い込まれ消えてしまった。
「うっへぇ、本当に真っ暗だな。一メートル先も見えやしねえ」
「ふむ、なれば先ほど貰ったアレを使えばよい。メレェーナと言ったか、貴殿が持ちたまえ」
「えー、あたしぃ? まあいいけど」
アーシアに促され、メレェーナはアゼルからミラーボール型の明かりを受け取る。魔力を流し込むと、目映い光が生まれ闇を照らし出す。
アルー自慢の逸品だけあり、尋常の光を掻き消してしまう闇すらも無力化してしまえるようだ。これならば、ある程度安全は保証されるだろう。
「よし、では行きましょうか。出来るだけ、メレェーナさんから離れないようにしましょうね。一度迷子になったら、もう合流は出来ないと思ってください」
「こええこと言うなよ……。まあ、そんくらい気ィ引き締めとかねえといけねえか」
「そういうことです。ここからが正念場です、頑張りましょう!」
これだけの濃い闇の中ではぐれてしまえば、合流は絶望的と言える。メレェーナの持つ明かりが見えていても、地形が分からなければ動きようがないからだ。
「ならば余にいい考えがある。こうして……ほら、全員を結んでしまえばはぐれることもなかろう。長さも自由に調整可能だから、敵に襲われても問題はない」
「わあ、ありがとうございますアーシアさん。これなら安心ですね!」
万一の事態が起こらないよう、アーシアは魔力のロープを作り出し全員の腰に結び付ける。魔力を流せば、長さの調節も自由自在だと言う。
これならば、想定外のアクシデントが起こらない限りはぐれてしまうことはない。油断こそしないが、ある程度の安心感を抱きつつ一行は慎重に進み始める。
◇――――――――――――――――――◇
「くそっ、なんだこのスケルトンども……ぎゃあああ!!」
「来るな、来るな! こんな数、倒せるわけな……ぐえっ!」
その頃、凍骨の迷宮の上層ではラ・グーの軍勢に対する
情け容赦など一切ない、殺意全開のスケルトンたちの連携により、グリネチカの部下たちはいくつかのグループに分断される。そして、各個撃破されていく。
「固まれ、仲間から離れるな! 背中を預けあって戦うんだ!」
「無理です、数が多すぎます! 一人ずつ引きずり……うわああああ!!」
「ザム……ぐあっ!」
数だけで言えば、グリネチカの部下たちもかなりの数を誇る。だが、スケルトンたちは地形を利用して四方八方から強襲を仕掛けてくるため対応が遅れてしまうのだ。
結果、消耗した者から仲間と引き剥がされ、複数のスケルトンに囲まれ為すすべなく殺される。そんな部下たちを、グリネチカはスケルトンをひねり潰しながら静観していた。
「やれやれ、弾除けにすらならないんじゃ連れてきた意味がないねぇ。本当に使えない、あらかじめ自爆用の魔法玉でも埋め込んでおけばよかったよ」
ラ・グーの側近なだけあって、十体近いスケルトンに囲まれても平然としている。手足に巻き付けたムカデの口から雷雲を吐き出させ、雷撃で相手を返り討ちにしていく。
「さて、今のうちに先へ進ませてもらおうかねぇ。全く、面倒なことだよ」
「そうはいきませんね。あなたにはここで死んでもらわねばなりませんから」
「おや? 新手さんの登場かい」
半壊状態に陥った部下を見捨てて、先へ進もうとするグリネチカ。だが、そんな彼女に待ったをかける者たちが現れた。ディアナとデジュン、そしてビレーテとアルーだ。
「性懲りもなく、また攻めてくるたぁな。闇の眷属ってぇのは、学習しないもんらしいのう」
「ね~。またボコボコにされに来るなんて、暇人~。チョーウケる~」
「サッサトカタヅケテ、ヤスモウヨ」
アゼルとの戦いを終えてからさほど時間が経ってはいないが、皆ピンピンしている。四対一ならば、よほどのことがない限り勝てるだろう。
全員がそう考えていた。が……。
「ふぅん、随分とまぁ舐められたもんさね。言っておくけど、アタシをあそこのグズどもと同じだとは思わないこった。千年前のようにはいかないのさ、老いぼれども!」
「!? 全員、離れてください!」
次の瞬間、グリネチカは両腕を頭上に掲げムカデの口から小さな球体を飛ばす。嫌な予感を覚えたディアナは、ジュデンたちに声をかける……が、遅かった。
「ウェザーレポート・コントロール……アポロンブラスター!」
「これは……熱線か!?」
球体が太陽のように熱く輝き、四方八方へ熱線が乱射される。直撃を食らったスケルトンたちは、その場で灰になり崩れ落ちてしまう。
ディアナの声かけで直撃こそ免れたものの、ジュデンらも手傷を負ってしまった。攻撃を中断させようにも、グリネチカに近づくことすら出来ない。
「ちょ~、なにあれ! ズルいんですけど!」
「むう、まずいのう。あの熱線が止まらんと、容易に近付けんわい」
「クッハハハ、アタシに近づくだぁ? その必要はないねぇ、ここでおねんねしてもらうよ。ラ・グー様より授かった、対ジェリド用の魔法……食らいな! スペル・オブ・フォルズン!」
右腕を下ろし、真っ直ぐ前に向けた後グリネチカは魔法を発動する。ムカデの口から薄いオレンジ色の鎖が四本飛び出し、ディアナたちに突き刺さった。
「むう、これは……ぐっ!」
「ジュデン様、どうされたのです!?」
「ち、力が抜ける……まるで、死ぬ直前のような……まさか!」
ディアナ以外の三人に、異変が起きた。あっという間に衰弱していき、その場に倒れ伏してしまったのだ。鎖はさらに増え、生き残っているスケルトンたちも餌食にしていく。
「これは、何が起きて……」
「おや? あんたは効かないのかい。へぇ、これは珍しい。アタシが何をしたか、教えてやるよ。この鎖はな、ジェリドの野郎に与えられた仮初めの命を一時的に消し去るためのものさ」
「命を、消し去る……!?」
「そうさ。この迷宮にいるスケルトンどもは、遥か昔ジェリドによって蘇生された連中だ。蘇生の炎を消してやれば、また骸に戻るって寸法さ。そのための魔法を、ラ・グー様は生み出したんだよ! アッハハハハ!!」
グリネチカの言葉に、ディアナは戦慄する。神より与えられた死者蘇生の力が、一時的とはいえ打ち消されるなど思ってもいなかったからだ。
だが、救いもある。この魔法では、完全に蘇生の炎の力を消すことは不可能。つまり、時間が経てばまたジュデンたちは復活することが出来る。
「……なるほど。ラ・グーも入念に準備をしていたというわけですか。一本取られたことは、素直に認めましょう。ですが……この先にお前を進ませないということに、代わりはない」
「へえ、言うじゃあないか。そんなボロボロな状態で、アタシに勝てるとでも?」
ある程度回復したとは言っても、ディアナはまだリジールとの戦いでの消耗が完全に消えたわけではない。戦いが長引けば、圧倒的に不利だ。
「勝てるかどうかは関係ありません。勝ちます。ただそれだけのことです」
「言ってくれるねぇ。生憎、こっちも時間がなくてねぇ。さっさと下に降りて、ジェリドをぶっ殺さないといけないんだ。消えてもらうよ」
「お断りですね、そのようなことは」
ディアナとグリネチカは、互いに睨み合う。それぞれの使命を抱く者たちの戦いが、始まる。
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