175話―制せよ! 戦車バトル!

「おお? マジ~? アルーの奥義、受け止めちゃう~? ありえね~!」


「むぐ、むうう……!」


 奥義が炸裂し、直撃を食らったアゼルとメレェーナ。だが、間一髪のところで防御が間に合った。ギリギリのところで重骸装フォートレスモードへの移行を終え、盾でアルーを受け止めたのだ。


「ひゃー、危なかったねー! でも、なんとかなったね!」


「ええ。一度受け止めてしまえば、もうこっちのものです! てやあっ!」


「オオオ、アァ!」


 アゼルは全身に力を込め、アルーを吹き飛ばした。アルーは空中で体勢を整え、かろうじて軟着陸を決めダメージを最小限にとどめる。


 が、車輪に負荷がかかったことで亀裂が生まれた。今はまだ小さいが、走行を続ければ亀裂が広がっていく可能性もある……が、アルーは亀裂には気付いていないようだ。


「やるじゃ~ん、チョーカッケー。いや~、ウチも惚れちゃうな~」


「……イイ」


「ダメだよ! アゼルくんはあげないよ! あたしたちのものなんだからね!」


「わわっ!? いきなり走り出さないでください~!」


 対抗心を燃やしながら、メレェーナは車輪を猛烈に回転させアルーとビレーテに突撃していく。危機を切り抜けて安堵していたアゼルは、突然のことに慌ててしまう。


 一方、ビレーテの方はすでに迎撃する準備を整えていた。大砲をアゼルに向け、ゆっくりと狙いを定める。


「そーれ! 戦技、アッパード・アルダーキャノン!」


「わわっ、来た! よーし、出でよヘイルブリンガー! 戦技、アックスブーメラン!」


 山なりの軌道を描く砲弾が四発発射され、アゼルとメレェーナ目掛けて飛来する。ヘイルブリンガーを呼び出したアゼルは、斧を投げて砲弾を叩き落とす。


「お~、やるじゃ~ん。マジ達人じゃん、スゲー」


「ビレーテ、コッチモヤル?」


「お、珍しくノリノリじゃんアルー。よ~し、とりまこっちも大技発射でぇ~す」


「そうはいきませんよ! メレェーナさん、全速前進です!」


「らじゃ! ぎゅーん!」


 ヘイルブリンガーを避けた後、ビレーテたちはアゼルとメレェーナから距離を取り、必殺技を放とうとする。だが、アゼルはそれを許さない。


 今度は自分たちの方から攻め込み、逆襲に向かう。距離を離さないと使えない技なのか、アルーはひたすらメレェーナから逃げていく。


「こらぁー! まちなさーい!」


「ニゲロ、ニゲロ。ココマデオイデー」


「むがー! 絶対捕まえてやるー! キャンディマイン!」


 すりばちコロシアム内でのおいかけっこが続くなか、しびれを切らしたメレェーナは作戦を切り替えた。まっすぐアルーを追いかけるのをやめ、大量のキャンディ地雷を取り出す。


 滅茶苦茶に蛇行しながら、あちこちにキャンディ地雷をバラ撒いていく。アルーの進路を妨害し、走行を封じようと目論んでいるのだ。


「ちょ~!? そんなんズリィっしょ! アルー、どする~?」


「モンダイナイ。ゼンブ、フミツブス!」


「そ~こなくっちゃ! そ~れ、いけいけ~!」


 が、どこ吹く風とばかりにアルーはキャンディ地雷を踏み潰し豪快にコロシアム内を爆走する。彼女が通るのに合わせ、踏み砕かれた地雷が爆発しカラフルな煙が吹き出す。


「メレェーナさん、このままじゃ追い付けませんよ。どうしますか?」


「ふっふーん、問題ないよアゼルくん。あたしの撒くキャンディが、ただの地雷なわけないじゃーん? ま、見ててよ」


 このまま逃げ切られ、必殺技を撃たれるのはまずいと焦るアゼルだが、メレェーナはのほほんとしていた。彼女はめざとく見つけていたのだ。


 アルー自慢の車輪には、すでに取り返しがつかないレベルの亀裂が広がっていることに。大量の地雷を踏み潰した結果、小さかった亀裂が急速に拡大している。


 そこに、付け入る隙を見出だしたのだ。


「オ? オッテコナクナッタナ。ビレーテ、キリフダ、ツカッチャエ」


「おっけ~。んじゃ、ウチの奥義……ぃ!?」


「アレ、シャリンガ……」


 十分に距離を離し、必殺の一撃を放とうとするビレーテ。だがその時、ついに車輪に限界が訪れた。亀裂によって著しく耐久性が落ち、左の後輪が砕けたのだ。


 バランスが崩れ、急ブレーキがかかりアルーは減速する。ビレーテがつんのめり、落下しそうになるもかろうじて堪えた。が、もう走ることは不可能だろう。


「ちょ~!? これヤバいって、マジピンチ! もうそこまで来てるし、ウチらやられちゃうって!」


「ダメ、シャリンウゴカナイ。ビレーテ、ココデヤルシカナイ」


「え~、チョーサイアク! ま~いいや、倒しちゃえばノーモンダイっしょ! いっちょやっちゃいますか!」


 車輪の状態を確認せず、調子に乗って走り回っていたツケを支払う時が来たようだ。ただの移動すらも封じられ、ビレーテとアルーはこの場でアゼルたちを迎え撃つことを決める。


 幸いにも、彼女らがいるのはすりばちの底にある平らな地面。姿勢を安定させることは出来る。アルーは地面に手足を突き刺して身体を固定し、奥義発動の体勢に入った。


「アゼルくん、何か仕掛けようとしてるよ。どうする?」


「たぶん、離れていると相手の攻撃の餌食になる可能性が高いです。一気に接近して……一撃で倒します!」


「おっけー! いくよ!」


 相手の動きを見たアゼルとメレェーナは、真っ向から打ち破るため動き出す。すりばちコロシアムをてっぺんまで登り、勢いをつけて下っていく。


 ヘイルブリンガーを構え、ビレーテが撃ってくるであろう奥義を迎え撃つための準備を整える。坂を降っていくなか、ビレーテが構える大砲が見えた。


「そんじゃ、いきま~す! 砲骸奥義、デスペラード・プロミネンスキャノン!」


「……来た! 戦技、アックスドライブ!」


 大砲が赤熱し、極太の魔力熱線が放たれる。直撃すれば、智利一つ残さずアゼルたちは消え去るだろう。だが、彼らは逃げない。


 己の勝利を信じ、真っ直ぐぶつかる。ヘイルブリンガーから凄まじい冷気を放出させ、熱線を打ち消しながら前へ前へと突き進む。


「なんの~、魔力ぜん! かい! うら~!」


「こっちだって、負けません! ジオフリーズ!」


 さらに勢いを増す熱線を遮るため、アゼルは猛吹雪を巻き起こす。熱と冷気がぶつかり合った果てに、道を切り開いたのは……アゼルの方だった。


「やっべ、この距離まで来られたら……!」


「勝機! 戦技、ブリザードブレイド!」


 熱線を切り裂き、アゼルはビレーテの元に到達した。身体を固定しているため、アルーは動けない。ヘイルブリンガーを振り下ろし、二人まとめて薙ぎ払いトドメを刺した。


「うあっ!」


「ガフッ……ヤラレチャッタ」


 固定用ベルトが切断され、ビレーテは派手に吹き飛び、アルーは力尽きそのままぐったりと崩れ落ちる。それと同時に、すりばちの底がせり上がり地面全体が平らになった。


「あいててて。負けちったのはチョ~ショックだけど~、ま! 楽しかったからオールオッケ~! やるじゃん、アゼルっち。文句なしで、ご~かく!」


「アッパレ! ゴクローサン!」


 全力のブリザードブリザードを食らったのにも関わらず、ビレーテもアルーもケロッとしていた。ジュデンともども、とんでもなくバイタリティに溢れているらしい。


「ありがとうございます、ビレーテさん、アルーさん」


「楽しかった! また遊びたいな、これ!」


「おけおけ、またいつでも受けて立つし~? ま、とりま今は先に進みなよ。お仲間さんも待ってるみたいだしさ~」


「コノサキ、マックラ。コレ、モッテッテ」


 そう言うと、アルーは地面から腕を抜きアーマーの胸元をがさごそ探る。胸に取り付けられていたミラーボールもどきを取り外し、アゼルに手渡す。


「……あの、これは?」


「ソレ、アカリ。コノサキ、ソレナイトテラセナイ。フツーノヒカリ、ヤミニクワレルカラ」


「なるほど、そういうことですか。では、ありがたく受け取らせてもらいます。ありがとう、アルーさん」


 宮殿より先は、アゼルも知らない未知のエリア。常闇に支配された暗黒の墓所だ。アゼルはありがたく選別を受け取り、お礼の言葉を述べる。


「き~つけて行ってね。ある意味、こっからが本番みたいなモンだし~。ま、アゼルっちなら問題ないだろ~けどね!」


「ええ。では、行ってきます!」


「ばいばーい!」


 ビレーテたちと別れ、アゼルとメレェーナはコロシアムの外に向かう。シャスティたちと合流し、凍骨の迷宮の深層へ向けて出発していった。

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