134話―巨大戦艦、発進!

 大艦隊の襲来の知らせを受け、アゼルたちの修行は全て中断された。一行は界門の盾でグランゼレイド城の会議室へ移動し、迎撃の用意を整える。


「リオ、街の市民たちは下層の防護シェルターに避難させた。仮に街に侵入されても、人的被害については心配はないぞよ」


「ありがとう、ねえ様。まあ、街が壊されちゃうのは嫌だし結界は使ったけどね。三重に覆っておけば、そう簡単には壊れないでしょ」


 水晶玉から映し出される映像を見ながら、リオとアイージャはそんなやり取りを行う。空中に投影された映像には、グランゼレイド城下町の空が映されている。


 艦隊は街を覆う防御結界を破壊しようと砲撃の雨を降らせているが、傷一つ付けられていない。しばらくの間は、街の防御は問題なさそうだ。


「それにしても、凄い数の敵ですね。こんなに大きな金属の塊が空を飛ぶなんて……敵ながら壮観です」


「どうやら、カルーゾは本格的に僕たちを潰しにかかってきてるみたいだね。よーし、それならこっちだってやっちゃうぞ。ダンねえ、格納庫への連絡は?」


「もう手配したよ、リオくん。もうすぐ、出撃するさ。私たちの飛行戦艦……『オメガレジエート:マーク7』がね」


 ダンスレイルがそう言うと、今度は街の端……かつて、アゼルたちが初めてこの大地に降り立った場所。物々しい格納庫が映し出される。


 格納庫では十数人の整備員が慌ただしく作業をしていた。何が始まるのか……とアゼルたちが見守っていたその時、整備員の一人が魔法石を取り出す。


『ダンスレイル様、起動準備完了しました。オメガレジエート:マーク7、いつでも発艦出来ます』


「ご苦労。じゃ、早速こっちに転送しておくれ。グランゼレイドの発着場横に頼むよ」


『ハッ! かしこまりました!』


 そのやり取りの後、アゼルたちは城の四階から入れる戦艦の発着場へと向かう。桟橋を通り、デッキに出ると……そこには、巨大な船があった。


「うわああ、おっきいですね……! それに、凄くかっこいいです!」


「これは……! ここまで強大な魔力の反応、見たことがない。一体、どのような技術が使われているのだ?」


 オメガレジエート:マーク7の全貌を見て、アゼルは歓声をあげ、リリンはその技術力を察し唸りをあげる。巨大な船の両側面には、大きな青色のカイトシールドが装備されていた。


 盾の表面には、円形に並んだ魔神たちのシンボルマークが描かれている。わあわあ感嘆の声をあげているアゼルたちを横目に、リオは右腕をスッと上に伸ばす。


「さあ、乗り込もう。あんまり時間をムダにしたくないからね、結界だっていつまでも持たないし」


「あと五分、せめてじっくり外観を……というわけにはいかぬか。残念だが仕方あるまい」


 戦艦の勇姿を見ていたかったリリンだったが、そうも言ってはいられない。リオが拳を握ると、戦艦の側面にある扉が開き、デッキにタラップが降りてくる。


 リオを先頭にして、一行は戦艦に乗り込む。艦橋内にある司令室に入り、リオは艦長用の椅子に腰を降ろす。様々な計器が並んでいるのを、アゼルはキョロキョロ見ていた。


「わあ、何でしょうこれ」


「あ、それ触っちゃダメだよー。自爆ボタンだからねー、どかーん! って爆発しちゃうよ、けろん」


「じ、自爆!? 絶対触りません!」


 ニヤニヤ笑うレケレスに脅され、アゼルは慌てて計器類から飛び退く……が。


「レケレス、物騒な嘘はいけませんわよ? それは自爆ボタンだはなく、緊急脱出用のものですわ」


「ちぇー、ネタばらしされちゃったー。ちょっとからかっただけなのにー」


「……おいおい、やめてくれよな。アタシらは何もわかんねえんだからよ。変なことしても責任取れねーからな?」


 エリザベートにたしなめられ、レケレスはぷぅと頬を膨らませる。そんなやり取りを見て、シャスティはやれやれとかぶりを振った。


「みんな、おふざけはもうおしまいだよ。さ、オメガレジエートを発艦させるからね。目標、カルーゾ艦隊! 発進!」


 リオはそう言うと、椅子の側面に取り付けられたレバーを倒した。すると、飛行戦艦が動き出す。発着場を離れ、結界を攻撃する敵艦隊へ向かっていく。


「さーてっと。今のうちに作戦会議しとこっか。あの例の魔獣……まだ動く素振りはないけど、何をしてくるか分からない。誰が相手する?」


 リオは司令室の前面の壁の上部にあるモニターを指差し、仲間たちに問いかける。モニターには、空中に浮かんだまま微動だにしない魔獣が映されていた。


「ぼくが行きます。ヘイルブリンガーなら、敵の船の妨害も同時に出来ますから」


「アゼルが行くなら、私も」


「いや、ここは私が行かせてもらうよ。斧の魔神として、後輩クンがどういう戦いをするのか興味があるからね」


 真っ先にアゼルが名乗りを挙げると、続いてリリンも名乗りを挙げようとしてダンスレイルに割り込まれる。同じ斧を得物とする者同士、興味が湧いたようだ。


「なんだと?」


「それにだ、私は自分で空を飛べる。その方が、連携をいろいろ取れるだろう?」


「むう……。確かに、その通りだな。仕方ない、アゼルは任せた。怪我などさせてみろ、承知せんぞ」


「はは、問題ないさ。私がいる限り、憂いることは何もない」


「……本当にそうだとよいのですけれどもね」


 リリンは渋々了承し、ダンスレイルに役目を譲る。アンジェリカはまだ心配なのか、小さな声でそう呟く。そうこうしている内に、敵艦の射程圏内に入ったようだ。


 オメガレジエートに砲撃が加えられ、司令室が振動する。モニターが切り替わり、ダメージ状況を示すグラフが映し出される……が、メーターは変化していない。


「さ、始めよっか。僕は艦を制御しなきゃいけないから、ここを放れられない。アゼルくん、ダンねえ、あの魔獣は任せたよ」


「はい! ぼくたちに任せてください!」


「必ず勝つさ。だから、リオくんはそこで待っていておくれ。さあ、行くよ後輩クン。甲板に向かうよ」


「はい!」


 魔獣の相手をするため、アゼルとダンスレイルは司令室を後にする。残った者たちに、リオは別の指示を行う。


「よーし、じゃあカレンお姉ちゃんはここに残って僕の補助お願いね。他のみんなは、適宜相手の戦艦に転送するから、内部からボコボコにしちゃって!」


「おう、任せな。久しぶりに、オレの槍が唸るってワケだ」


「うん。期待してるよ、ダンテさん」


 リオは真正面から砲撃の殴り合いをしている間に仲間を送り込み、敵戦艦を各個轟沈させる作戦を出した。その指示に、みなやる気を見せる。


「へっ、カチコミかけてこいってか? いいねぇ、そういうのを待ってたんだよ。アタシを一番手にしてくれよ、ちびっこ。バンバン暴れてやるぜ?」


「あ、ずるーい! おとーとくん、わたしが先! 相手の戦の連中を、みんなドロドロに溶かしちゃうから!」


「ちょ、だいぶ物騒ですわね!?」


 可愛い顔してとんでもないことを言うレケレスに、アンジェリカは思わず突っ込む。リリンとシャスティも同調し、うんうんと頷く、が。


「まー、レっちゃんだからね。いつものことだよ、にんにん」


「そうそう、いつものことだ」


「左様ですわ」


「全くだな」


 クイナやダンテ、エリザベートらは軽く流していた。リオの方を見ると、瞑想の真っ最中であった。リリンたちは少々戸惑うも、彼らに習いまあいっかと流した。


「……どうにも、魔神たちのノリにはついていけん……」


「そうか? アタシは結構楽しいぞ?」


「それはシャスティ先輩がちゃらんぽらんだか……エ゛ア゛ッ!」


「はいはい、ちょっと黙ろうな?」


 シャスティの肘打ちをみぞおちに食らい、アンジェリカは轟沈した。フリーダムななのは、皆同じなようだ。そんな中、リオの持つ魔法石に、外に向かったダンスレイルたちから連絡が入った。


『リオくん、外に出た。今から魔獣へ攻撃を仕掛ける。街から引き離すから、その間に艦隊を頼むよ』


「うん、分かった。ダンねえもアゼルくんも、武運を祈るよ!」


『任せてください! 必ず、魔獣を倒して……神族の子どもを解放します!』


 アゼルの勇ましい声を最後に、連絡は終わった。強大な敵との戦いが、今始まろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る