116話―魔凍斧ヘイルブリンガー
アゼルの到着から、数分後。攻守が完全に逆転し、今度は魔物たちが狩られる番になっていた。骸の兵隊を率い、アゼルは敵を押し返していく。
「戦技……ブリザードブレイド!」
「クギィアァ!!」
ヘイルブリンガーが振るわれ、冷気の刃が巨大な鷹の魔物を真っ二つに切り裂いた。その側では、ブラック隊長の指示でスケルトンたちが戦っている。
「陣形を乱すな。たとえ一体でも、先へ進ませてはならぬ。もし突破されるようなことになれば、恥と思え」
「……了解した、ブラック隊長」
手にした剣を振るい、スケルトンたちはアーマードエイプをバラバラにしてしまう。時折アゼルと連携し、上空から攻撃してくる鳥型の魔物を返り討ちにする。
「行かせませんよ! バインドルーン……キャプチャーハンド! それっ!」
「ピアッ……ギィッ!」
「これでまた一つ、マスターのお役に立てました」
刃のような翼を持つ鳥の魔物、ブレイドホークの一団が防衛ラインを越えようと飛んできた。アゼルはヘイルブリンガーを頭上に掲げ、ルーンマジックを使う。
緑色の手が斧刃から伸び、ブレイドホークを纏めて捕まえる。強く拳を握って翼をへし折った後、ブラック隊長たちの方へブン投げ、首をはねてもらった。
「凄いなぁ……。やっぱり、王の末裔の強さは伊達じゃないな!」
「ああ。とは言え、いつまでも頼ってばかりじゃいられない。俺たちも、傷の手当てが終わったら加勢に……」
騎士たちが戦いの行方を見守っていたその時、強大な気配が近付いてくる。魔物たちは一斉にサーッと退き、左右に別れて道を開けた。
「おやおや。あと一息で攻め込めるというのに、邪魔をしてくれるとは。ま、それも当然のことではあるか」
「……来ましたね。堕天神」
「ごきげんよう。んふふ、なかなか勇壮な面構えだ。これは楽しめそうだねえ?」
現れたのは、スーツとシルクハットを身に付け、ステッキを持った老年の紳士だった。にこやかな笑みを浮かべているが、目は笑っていない。
「自己紹介しておきましょうか。ワシはズーロ。光明神ディトスに支えていた伴神。『豊穣』の神能を司る者」
「豊穣、ですか。念のために聞きますが、あなたもカルーゾの思想に賛同したのですね? ベルルゾルクのように」
「如何にも。ワシはウェラルドのような半端者とは違うよ。主を裏切ったのだ、無論……カルーゾ卿の信念に賛同したさ。君たちは……根絶されねばならぬ。危険分子には、滅びてもらわねばな」
「そうですか。その言葉を聞けて、安心しました。なら……」
伴神――ズーロに、アゼルは問いかける。そして、彼の答えを聞いた後、ヘイルブリンガーを向けた。完全なる敵意を向けてくるならば、遠慮なく……倒せる。
「……あなたにはここで死んでもらいます。この大地の守護者として、ぼくは戦わねばなりませんので」
「分かっているとも。無論、ワシとて同じよ。君にはここで消えてもらう。悪しき芽を摘むためにも……な!」
「マスター、危ない!」
次の瞬間、ズーロは目にも止まらぬ速度でアゼルへ突撃する。ステッキに仕込んだ刃を抜き放ち、胴を両断せんとするために。
それに対し、アゼルの対応は早かった。即座にヘイルブリンガーを構え、盾代わりにしてズーロの放った斬撃を受け止める。
「ほう、なかなかの反応速度だ。腕だけでなく、目も良いのだな」
「ええ。これでも、右目の視力は凄いんですよ? あなたの攻撃は……全部、見えています!」
腕に力を込め、アゼルは相手を押し返す。反撃を叩き込もうとするも、その前に退散されてしまった。魔物たちに自身を囲ませ、ズーロは笑う。
「さて。それでは神らしく、奇跡を起こすとしようか。魔物たちよ、恵みを授けよう。強大な力を以て、邪魔者の手出しを阻むのだ」
「……? あいつ、一体何を……」
ズーロが地面にステッキを突き立てると、異変が起こる。地中から木の根が隆起し、魔物たちの身体を貫いたのだ。一見、ただの味方殺しにしか見えないが……。
すぐに、さらなる変化が起こる。木の根を通して、魔物たちに魔力が注ぎ込まれたのだ。コボルトやオークは知能が上昇し、アーマードエイプはさらに表皮が堅牢になる。
「これは……!」
「ゆけ、魔物たちよ! 手負いの者どもを仕留めるのだ!」
「させない! ブラック隊長、騎士さんたちを守って!」
「承知しました、マスター」
ズーロに『恵み』を施され、強化された魔物たちは再び攻勢に出る。アゼルは防衛ラインと騎士たちを守るべく、スケルトンたちに守りを固めさせた。
「これで他の者たちは手出し出来ない。さあ、一対一の戦いを始めよう。神殺しの力を持つ者よ」
「ええ、受けて立ちますよ。あなたを倒し、魔物たちも止めてみせる! チェンジ、
アゼルは覇骸装を変化させ、より身軽に動けるようにする。ヘイルブリンガーを振る邪魔にならぬよう、今回はブレードは腕部に収納されていた。
先ほどのズーロにも劣らぬ速度で距離を詰め、アゼルは斧を振り下ろす。斧刃と仕込み剣がぶつかり合い、甲高い音が周囲に響き渡る。
「見た目に違わず重い一撃だ。なるほど、これはまともに受ければ致命傷となるな」
「余裕ですね。その態度がいつまで持つのか、見せてもらいますよ! 戦技、アイシクル・ノック・ラッシュ!」
身体ごとヘイルブリンガーを回転させ、アゼルは斬撃の嵐を叩き込む。重量を乗せた連続攻撃を、ズーロはステッキでいなし、受け流す。
細い刀身はかなり頑丈に造られているようで、何度斧刃を打ち込まれてもヒビ一つ入らない。ファーストコンタクトは、全くの互角だった。
「はっ! てやっ! たあっ!」
「ふむ……これは困った。反撃のタイミングをことごとく潰されるとは。やはり、侮るべきではないか!」
打ち合いが始まってから、十分近くが経過し……ズーロはいまだ反撃に移れていなかった。一見、無茶苦茶に斧を振り回しているだけに見えるアゼルだが、実際は違う。
反撃の兆候を即座に察知し、的確に攻撃を差し込んで相手の動きを封殺する。最初は互角だった打ち合いも、少しずつズーロが不利になりつつあった。
「このまま一気に仕留めさせてもらいます! ソウルルーン……ベルセルクモード!」
「むっ、さらに力が……なるほど、これは面白い!」
アゼルは決着をつけんと、第四のルーンマジックを発動する。斧刃に刻まれたルーン文字が紫色に輝き、狂戦士の如き無尽蔵スタミナとパワーが宿る。
肉体を活性化させ、身体能力を飛躍的に高めたアゼルは、ズーロの脳天目掛けてヘイルブリンガーを振り下ろす。……が、ステッキで受け止められてしまった。
「いい一撃だった。だが、ワシを仕留めるにはまだ足りんな」
「くっ……なら、こうです!」
「ぬおっ!」
攻撃を防がれたアゼルは、体当たりを放ってズーロを吹き飛ばす。このままでは、らちが明かない。いつまでも攻防を続けている余裕など、アゼルにはないのだ。
「勝機! 戦技、フローズンブラスト!」
「ムダよ。サンドウォール!」
アゼルはヘイルブリンガーを勢いよく振り抜き、冷気の衝撃波を飛ばす。それを見たズーロは、ステッキを地面に突き立て土の壁を作り出し、衝撃波を防ぐ。
「ふっ、この程度でワシを……なっ!?」
「油断しましたね? ズーロ。さあ、今度こそ食らいなさい!」
土の壁が崩壊した直後、反撃を仕掛けようとしたズーロの目の前にアゼルが立っていた。衝撃波はただの囮。本命は、アゼル本人による攻撃だ。
「しまっ……」
「戦技、アックスドライブ!」
ズーロが防御するよりも早く、アゼルの放った一撃が神に炸裂した。
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