47話―驚異! 悪食の魔剣!
「さあ、復讐の始まりだ! 俺が授かった新しい力で、お前に地獄の苦しみを味わわせてやる!」
「そうはいきません! サモン・スケルトンナイツ!」
大剣を構え走り出すダルタスを見ながら、アゼルは十体の骨の騎士を創り出す。二体を自身の護衛として残し、残り八体とボーンビーを迎撃に向かわせる。
「スケルトンナイツ、ダルタスさんを切り捨てちゃいなさい!」
「ハッ、ムダだぜ。こんか骨ごときに、俺は倒せやしねえ! さあ、食事の時間だ、たっぷり喰いな! 悪食の大剣よ!」
「!? 剣が、震えて……」
ダルタスが叫ぶと、剣に変化が現れる。刀身の先端から根元まで真っ二つに裂け、いびつに並んだ牙の全てが内側へひっくり返ったのだ。
その姿はまさに、貪欲に獲物をむさぼり喰らわんとする悪食の魔獣と呼べるおぞましいものであった。ダルタスが腕を横に薙ぐと、剣の柄が伸びる。
「さあ、喰い尽くせ! 邪戦技、グリーゾンイーター!」
「まずい、全員退却!」
「もうおせぇ! 全員、この剣の餌食だ!」
禍々しい形状になった剣を見て、嫌な予感を覚えたアゼルはスケルトンナイトたちを退避させようとする。が、時すでに遅く、全員が悪食の大剣に
刀身が膨らみ、バリボリとスケルトンたちを噛み砕く嫌な音が響く。その間にもダルタスは攻撃の手を緩めず、鉄塊のようになった剣を振り上げる。
「次はお前だ! 死ねぇぇぇ!!」
「くっ、てやっ! まずいな、正面からは危険……なら!」
受け止めるのは危険だと判断し、アゼルはスケルトンナイトと共に横に跳んで攻撃を避ける。再度ボーンビーを創り出し、ダルタスの背後から一撃を加えようとするが……。
「おっと、後ろなら俺が見えないと思ってんだろ? そんな甘い考えが、通用するかよ!」
ダルタスの着ている鎧の背中に二つの目と大きな口が浮き上がり、ギョロリとボーンビーを睨み付ける。口が開き、中から伸びた舌に絡め取られ、ボーンビーは補食されてしまった。
「そんな!?」
「残念だったな。俺が纏っているのは、生きた鎧の魔物……リビングアーマー。俺はそいつと融合したのさ。ソウルユニゾレイターの力でな!」
「……なるほど。魂ごと魔物と融合して自分を強化した、というわけですね」
「その通り。たまに魔物の思考が出るのが鬱陶しいが、なかなかに快適だぜ? なんたって、こんなにも素晴らしいパワーを使えるんだからな!」
心底嬉しそうにそう叫ぶと、ダルタスは食事が終わった悪食の大剣を振り上げ、頭上に掲げる。すると、剣から不気味な黒い雷が放たれ、アゼルに襲いかかる。
「これは……! スケルトンナイト、ディフェンスフォーメーション!」
「ムダなんだよ! どれだけ守りを固めても! こいつを防ぐことは不可能だ! 邪戦技、グリーゾンサンダー!」
剣から放たれた竜の雷は、竜の頭部を形作りアゼルと二体のスケルトンナイトに襲いかかる。大きく開かれた口の中に彼らを飲み込み、激しい電撃で焼き焦がしていく。
「うああああああ!!」
「ハーッハハハハ!! いい気味だ、苦しめ、もっと苦しめ! 俺がジェリドから受けた苦しみは、まだまだこんなもんじゃあねえぞ!」
黒い雷に全身を貫かれ、苦悶の表情を浮かべるアゼルを見ながらダルタスは愉快そうに笑う。しかし、いい気になっていた彼は見逃していた。
身を焼き焦がされながらなお、アゼルが己の身体に蘇生の炎を灯していたことを。
「さあ、次だ! 今度はお前を悪食の大剣の餌食にしてやる! ゆっくりたっぷりなぶってから殺してやるよ、アゼル」
「そうは……いきません。あなた程度に負けていられるほど、ぼくは暇じゃないんです! ジオフリーズ!」
「ぬおっ!?」
アゼルは死の吹雪を解き放ち、己を包む雷の竜を吹き飛ばす。電撃が雲散霧消し、ダルタスの視界を塞ぐ。その隙に、アゼルは一気に接近する。
「うおりゃあっ!」
「うおっ!? てめぇ、離れろ! クソガキの分際で、俺の顔に触れるな!」
「これでも食らいなさい! ジオフリーズ!」
素早く飛び上がったアゼルは、ダルタスの首に両足を回して逆向きに肩車したような体勢になり、左手で相手の顔を鷲掴みにする。
そして、相手が剣を振るよりも早く、再び死の吹雪を左手からぶっ放した。凄まじい冷気が襲いかかり、ダルタスの顔面をたちまち凍らせる。
「……! ……!!」
「やあっ! よし、次は……こうです! 出でよ、凍骨の大斧!」
顔面が凍り付き、一瞬動きが止まった隙を突いて離脱した後、アゼルは得物を呼び出し勢いよく振り上げる。そのまま真っ二つに両断し、トドメを刺そうと一歩踏み出すが……。
『そうはさせない。ここで彼に死なれるわけにはいかないのですよ』
「わっ!? じ、地面が!」
次の瞬間、それまで静観していたレナスターが介入し、アゼルの足元に大きな次元の裂け目を作り出す。その中に落とされたアゼルは、岩山の中腹に投げ出されてしまう。
「うう、いてて……。あとちょっとでダルタスを倒せたのに……こんな調子で邪魔されてたら、戦いが終わらないや。こうなったら、先にレナスターを倒さないと……」
『ほう、面白いことを言いますね。この異空間の支配者たる私を倒すと? 残念ながら、それは不可能ですよ。すでに、残る灼炎の五本槍のメンバー二人もここに来ていますから』
「ぼくたちに勝ち目はない、と。甘く見ない方がいいですよ。分断したからといって、そう簡単に負けるほどぼくの仲間たちは弱くありません」
『果たして、それはどうでしょうかね? ……ん? なんだ、この気配は。こんな者は招き入れて……』
アゼルを挑発していたレナスターだったが、何か異変が起きたらしく声に焦りの色が混ざる。直後、空がヒビ割れ見慣れたバケツヘルムが躍り出てきた。
「太陽ォォォォォ!!」
「わああっ!? そ、ソルディオさん!? どうして……いや、どうやってここに!?」
「いやー、体育館の修復が終わったので校長室に報告に向かったら、扉の中がよく分からない空間になっていてな。直感でここに入れば太陽に一歩近付ける! と思い飛び込んだのだ! はっはっはっはっ!」
『バカな、あり得ない! 扉は魔力で固く封印していた! それを腕力だけでこじ開けるなど不可能なはず!』
どうやら、ソルディオの乱入はレナスターにとって完全に想定外の事態なようだ。それまでの冷静さがたちどころに消え、切羽詰まった声を出す。
「何があったかは知らぬが、よくないことが起きていることは分かった。なればこのソルディオ、微力ながらお力添えしよう! 太陽の力をもって!」
「ありがとうございます! ソルディオさんが加われば、まさに百人力ですよ!」
『くっ……まあいいでしょう。例え一人戦力が増えたところで、すでにこの世界にいる者たちの命運は変わりません。皆死ぬのですよ。勿論、あなたたちもね!』
心強い助っ人の参入にアゼルが喜んでいたのも束の間、再び空に裂け目が開く。その中から、二つの頭を持つ大きなドラゴンが姿を現した。
『さあ行きなさい、ツインヘッドドラゴン! その二人を始末するのです!』
「ほう、これはまた巨大な。これは実に倒し甲斐があるというもの。竜を屠るは騎士の誉れ。行こうかアゼル殿!」
「ええ、やりましょう!」
緑と黄、二色の鱗を持つ巨大な竜を前にアゼルとソルディオは勇ましく武器を構えた。
◇――――――――――――――――――◇
同時刻、レナスターの作り出した世界のどこかにある砂漠。そこを、リリンとアンジェリカがさ迷っていた。照り付ける強烈な陽射しに、二人ともフラフラだ。
「あ、暑いですわ……このままでは、二人ともカラカラに乾いて死んでしまいます……」
「参ったものだ……炎や雷の魔法は使えるが、生憎私は水や氷の魔法は一切使えん。オアシスでも見付かればなんとか……ん? おお、話をしていれば!」
命の危機が近付くなか、二人は遠くにオアシスを発見する。喜び勇んで走り出し、ヤシの木に囲まれたオアシスに飛び込んだ。
「ありがたい……蜃気楼ではなかったか。まずは喉を潤すとしよう」
「ええ、もう喉がカラカラですわ……」
二人は早速湖に走り寄り、水をガブ飲みする。乾きを癒して一息ついていると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「上手かったかい? 人生最後に飲む水は。死ぬ前にわざわざいい思いさせてあげたんだ、感謝してほしいね」
「何者だ、姿を見せよ!」
「面白いことを言う。オレならもう、お前たちの前にいるじゃあないか。ほら、ここだよ、ここ」
リリンたちが周囲を見渡していると、彼女たちの真正面、少し離れた場所に生えている一際大きなヤシの木が震え出す。木の上部になっている四つのヤシの実全てに、男の顔が浮かんだ。
「なんと、あんなところに敵が!?」
「エアアアアア! き、きもちわるいですわあああ!! ヤシの木のお化けですわあああ!!」
「死のオアシスにようこそ。オレはグリーチカ。灼炎の五本槍の一人。さあ、お前たちを砂漠の砂として散らせてやろう。覚悟するがいい!」
アゼルたちとはまた別のところで、戦いが始まろうとしていた。
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