23話―闇霊『ねじれの魔女』ビアトリク
『あたしと
「そうはさせません! サモン・スケルトンウォーリア!」
ビアトリクの放つ光線を避けつつ、アゼルは片刃の斧と小さな円盾で武装した骨の戦士を三体呼び出す。戦士たちは、弾除けと攻撃手段の役割を兼ねているのだ。
「ぼくが相手を足止めします! リリンお姉ちゃんとシャスティお姉ちゃんは、その間にこのダンジョンのどこかにある
「ふっ、そのような手間がかかることをせずとも問題はないぞ、アゼル。こやつを始末してから、じっくり探せばいいからな。サンダラル・アロー!」
「お姉ちゃんダメです、それは悪手なんです!」
アゼルが止める間もなく、リリンは雷の矢を放ちビアトリクを貫く。不気味な笑い声と共に、霊体となったビアトリクは消滅していったが……。
「なんだ、あっさり倒せるではないか」
「ええ、霊体自体はほとんど防御力はありません。でも、それ以上に厄介なのは
「なに!?」
『そうだよー。残念だったねー、本体さえ無事なら、やられちゃった場所からいくらでもリスポン出来るのさ!』
直後、闇の瘴気がどこからともなく集まり、復活したビアトリクが再び姿を現す。そして、またしても光線を発射して攻撃してくる。
「チッ、面倒な! ならば、アゼルの言う通り本体を叩くしかあるまい。シャスティ、
「大抵、連中は根城にしてるダンジョンの最奥部に本体を隠してやがるからな。多分、この魔女野郎もロランティマ洞窟のどっかに本体を隠してるはずだ! 探しに行くぞ!」
『そうはさせないなー! グリネッグドール!』
アゼルの言葉通り、どこかに隠されているビアトリクの本体を見つけるためリリンとシャスティは洞窟の奥へ向かおうとする。二人を阻止するべく、魔女は光線を放つ。
が、リリンたちを守るため、アゼルが操るスケルトンウォーリア二体が代わりに光線を受け止めた。先ほどのリリン同様、スケルトンの体表に不気味な紋様が浮かび上がる。
「そうはさせませんよ! あなたの相手は、ぼくとスケルトンウォーリアたちです!」
『生意気だねー! まあいいさ、ならまずはお前たちからねじ切ってやる!』
行く手を阻むアゼルとスケルトンウォーリアたちを始末するべく、ビアトリクは魔力を用い二つ目の人形を作り出す。そして、空中に浮かべた二つの人形の首を、百八十度ねじった。
すると、紋様が浮かんでいるスケルトンウォーリアの首も同じように曲がり、ねじ切られてしまった。魔女の魔力が干渉したからか、頭を失ったスケルトンたちは消滅してしまう。
「スケルトンウォーリアが一撃で……」
『どーお? 驚いたかなー? これがあたしの死霊術『グリネッグドール』さー。次はお前だよ、がきんちょ。全身をゆっくりゆっくりねじ切ってやる!』
「やれるものならやってみなさい! ぼくは絶対に逃げません! 操骨派のネクロマンサーとして、負けるわけにはいきませんから!」
そう勇ましく啖呵を切り、アゼルはさらに三体のスケルトンウォーリアを呼び出しビアトリクへ反撃する。剥ぎ取り用に呼び出した者を含め、計六体のスケルトンを操り、
「いきますよ、スケルトンウォーリア、攻撃です! 戦技、アックスドライブ!」
『そんなものー、当たるわけねぇだろー! グリネッグドール!」
「おっと! こっちの攻撃は、まだ終わっていませよ」
『な……うぐあっ!』
四体のスケルトンウォーリアによる連続攻撃を素手で捌いたビアトリクは、アゼルを狙って光線を撃とうとする。すると、ウォーリアの一体が弾け、バラバラになった骨が魔女を襲う。
予想外の攻撃にビアトリクが怯んだ隙を突き、アゼルの側で待機していた二体のスケルトンが突撃して剥ぎ取り用の短剣で相手を貫いた。またしても魔女が消滅し、再び現れる。
『やってくれるねー。あたしを殺し続けて他のお仲間を追えないようにするつもりかな? ムダなのことなのにね! グリネッグドール……スピンウェーブ!』
「危ない! スケルトンたち、避けて!」
『ムダムダムダ!! 全部ムダなのさ! さあ、鬱陶しい骨どももこれまで。ぜぇーんぶ、バラバラにねじ切ってあげるよ!』
復活したビアトリクは両手を突き出し、身体を回転させながら光線でスケルトンたちを薙ぎ払う。アゼルは自身が回避するのに手一杯となり、スケルトンたちを全てねじ切られてしまった。
武器を残し、バラバラにされたスケルトンたちは消滅してしまう。
「しまった……こうなったら!」
『さあて、最後はあんただよー。っと、炎なんて出しちゃって、そんなもの当たらないねー! さあ、これで終わりさ!』
「あぐあっ……」
アゼルは右手から紫色の炎を放ち、自身ごとビアトリクを業火に包み込む。しかし、霊体であるビアトリクに炎は通じず、首を掴まれ直接紋様を刻まれてしまう。
そして、人形の関節全てをねじり切り、アゼルを殺害してしまった。目標を始末した喜びに、ビアトリクは狂喜乱舞し高笑いをする。
『あははははははは! ざまぁーみろ、ジェリドの末裔がなんだってのさ! このあたしの手にかかれば、容易く殺せ……る?』
そのまま洞窟の奥へ進み、リリンとシャスティも始末しようとするビアトリク。そんな彼女の身体を、残された短剣が貫いた。
ビアトリクに殺され、バラバラにねじ切られたはずのアゼルが短剣を突き刺していたのだ。
『あ……? お前、なんで、生きてる?』
「残念でしたね。さっきぼくが炎を出したのは、あなたを倒すためではないんです。あなたに殺された時に、ぼくが蘇生出来るようにするためのものだったのですよ」
そう。アゼルがよみがえらせることが出来る死者は、他人だけではない。下準備こそいるものの、己自身をも蘇生させることが出来るのだ。
先ほど放った炎はビアトリクへ攻撃するためのものではなく、自分自身に蘇生の炎を宿すためのものだったのである。
『このガキ! でも、残念だねー。こうして床をすり抜ければ、もうお前の攻撃は届かないんだよ!』
「残念ですが、もうタイムオーバーですよ、ビアトリク。お姉ちゃんたちが、あなたの本体を見つけたようです」
『なに?』
アゼルがそう言った直後、ロランティマ洞窟全体が激しく揺れると共に、下層の方から轟音が響いてくる。次の瞬間、ビアトリクは顔を歪め苦しみ始めた。
『あああああああ!! あいつら、あたしの本体を見つけやがったな! あり得ない、こんな短時間で洞窟の最下層にたどり着けるわけがない!』
「と思うだろ? 行けるんだよなぁ。この洞窟、隠し通路を通れば楽に最下層まで行けるんよ」
魔女が叫んだ直後、アゼルから少し離れた洞窟の壁の中からシャスティとリリンが現れた。二人は隠されたショートカットを使い、一気に最下層に到達し本体を見つけたようだ。
「
『なん、だと……』
「ここはなぁ、ルーキー冒険者が簡単に最下層にたどり着けるようにあちこちに隠し通路とワープポイントが設置してあんだよ。残念だったな、アゼルを殺せてなくてよ」
「え、まあ、はい」
実際にはアゼルは一度ビアトリクに殺されているのだが、それを今話せば、リリンがキレて何をしでかすか分からない。そのため、アゼルはすっとぼけることにした。
『ぐう、あ……ふふ、ダンジョンのリサーチを怠るなんてあたしもちょっと油断してたねー。冒険者どもをて手っ取り早く狩れると思ってここに来たけど……しくじった、ね』
そう言い残し、ビアトリクは塵となって消滅した。本体を失えば、
「やれやれ、なんとか終わったな。ルーキー時代にしこたまここで稼いでてよかったぜ。ショートカットしなきゃ、アゼルが殺されてただろうし」
「ありがとうございます、シャスティお姉ちゃん。本当に助かりました」
「おうよ、礼ならリリンにも言ってやんな。あいつが本体を仕留めたんだから」
「はい。リリンお姉ちゃんもありがとうございます」
「気にするな、アゼル。自分の失態の後始末をしただけだ。さ、狩りを続けようか」
ビアトリクを退けたアゼルたちは、依頼を達成するため狩りを再開する。しかし、この時彼らは知らなかった。この一件が、
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