井倉さんはいくら?

早坂楼

第1話 井倉さん

「おはようごさいます!」


威勢の良い挨拶が青空へと響き渡る。

ここ[七星保育園ななほしほいくえん]は今年で創業10年目を迎える日本でも有名な保育園。

私、花野眞日呂かのまひろは今年、初めて保育士として此処に勤めることになりました!仕事が始まって二週間経つけれど、わからないこともいっぱいでまだまだ学ばないといけないことが沢山あります。

私含めていろいろな保育士さんがここで働いていますが

そんな中でも七星保育園の明るいお兄さん井倉透いくらとおるさんはお子さんには勿論、そのパパさんママさんにも大人気。

────なのだけれど、、、

彼は他の人とは違うちょっと変な所が、、、


「花野さん、ちょっと手伝ってくれない?」


「あっはい!」


私は動かしてた手を止めて席を立った。

灰色のデスクにドンと開かれたノートをそっと閉じ、目の前にある玩具が詰まったダンボールを持ち上げた


「それ、準備室に置いてもらっていい?」

私に指示をしているのは私より10年長く生きている佐藤麻伊さとうまいさん。

ここでは私の先輩だ。

今でも燃え上がりそうなその髪はいつものように風に揺られている。


「いやー年取るのはイヤだね。」


「そうですねー今のうちに出来ることがあればしときたいですよ。」


(私も今年で24、何かやることあるかなー)なんて思いながら、手に抱えたダンボールを準備室へと運んでいく。


「重そうですね、少し持ちましょうか?」


後ろの方で爽やかな声が聞こえる


「あら、いいの?ありがと。」


明らかに佐藤さん声高くなってる、、、


「いえいえ、これくらい朝飯前ですよ!」


「やっぱり井倉さんは気が利くわね~」


井倉さんは皆から大人気のお兄さん。

なーんて呼ばれてるけど、もし皆にあの癖がバレたらどうなるんだか、、、


「どんなに重いハコでも持ち上げれるのが僕の十八番おハコですから、ハコだけに!」


でたでた井倉さんの駄洒落

井倉さんの癖、それはどんな事をしていてもその場に合った駄洒落を口に出すのだ


夏の昼間なのに一気に寒い空気が背中を流れる


「あはは、お得意の駄洒落?」


佐藤さん頑張って笑顔作ってるけど若干苦笑いになってる、、、


「ええ!駄洒落大好きなので!」


驚きなのが奇跡的にまだ一回もどのママさんパパさんにもこの癖がバレていないということだ。

まぁそう大した癖じゃないんだけど酷いときには夏なのに寒く感じることだってある。

内心もうやめてほしいななんて思ってるけど悪気はなさそうだし、はっきり言っちゃったら可哀想だしなぁ、、、、


「さ、さぁ運びましょ?」


「ええ!そうしましょう!」


これから始まる保育士生活、大丈夫かなぁ。

イヤイヤ、細かいことは考えちゃダメ!気楽に行くことしよう!


この時、私はまだ知らなかった。

彼の駄洒落地獄の門が徐々に開かれていることに、、、、






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

井倉さんはいくら? 早坂楼 @Lor9031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る