今日付でグラドルのマネージャーになりました

青キング(Aoking)

プロローグ

 テラスの目の前に面した白い砂浜で、グラビア撮影を行われていた。

 撮影者がカメラを構える。しなやかな髪を頭の横で一房まとめた少女が、白いビキニ姿で青い海を背にして立膝をしている。


「はい、撮りまーす」


 撮影者の男が少女に告げた。少女は声に応じて微笑んだ。


「うん、可愛く撮れたよ」


 撮影者は満足のいった顔で頷く。


「次、映像撮りますか?」


 少女が撮影者に訊いた。


「そうしよう。一発でいいのが撮れたから表紙の撮影は済んだよ」

「映像って何をすればいいんです?」

「そうだなあ」


 撮影者は腕を組んで考える。


「砂浜だから定番は走るシーンだけれど、菜津ちゃんはどんなシーンが撮りたいとか希望ある?」

「監督にお任せします」

「そうか。じゃあスタッフと細かい部分の話し合いをするから、少し休憩してていいよ」

「わかりました」


 菜津ちゃんと呼ばれた少女は監督に頭を下げて、俺のいるテラスの方に歩いて来た。

 手すりにもたれて砂浜を眺める俺をじっーと見ながら、テラスに上がってくる。


「何、見てるの?」

「あの監督はどんなの撮るのかなって」


 てきとうに答えた。

 菜津はふーんと興味なさそうに合の手を返して、ウッドチェストに背にかかった赤のパーカーを羽織ると、足を組んで腰かける。

 

「あんたはグラビアのカメラマンの優劣がわかるの?」

「わからん」

「なんだ、わかんないのね。それくらいの能力はあって欲しかったわ」


 嘲る口調で菜津は言った。


「わるかったな、能力が無くて」

「別に悪くわないけど、へんな口出しするのだけはやめてよね」

「ああ、わかってるよ」


 マネージャの俺に撮影について口を挟まれるのを、彼女は好ましく思っていない。不用意に口を挟もうなら、社長に訴えて俺を免職させようとするかもしれない。

 弱い潮風がテラスに吹き込んでくる。菜津の結んだ髪が小さいく揺れた。


「でも何か問題が起きそうだったら駆け付けてきて解決しなさい。あんたはあたしのマネージャーなんだから」

「問題って具体的にどんな?」


 彼女の言う問題がどんな事柄なのか訊かなくても承知していたが、彼女に言わせてみたくってわざと知らない振りで訊き返す。

 途端に菜津は頬を赤く染めた。恥ずかしさを隠すようにムキになる。


「どんなって、あたしに答えさせないでよ」

「答えられないような事なのか?」

「それはあんたが一番理解してるでしょうが」


 こうしてからかってムキになるだけ、可愛げがあるというものだ。

彼女の怒る声に砂浜の撮影陣が気付いてこちらを目を向けたので、度が過ぎる前にからかうのをやめよう。


「冗談だ。撮影の問題が何なのか知ってるよ」

「なら、いいけど」


 さも当然と言う顔で頷いた。

 いつも上から目線は気に食わんが、マネージャーという役職柄致し方ないのかもしれん。

 砂浜では撮影準備が調ったようだ。監督のようし決まりだ、という気合溢れる声がこっちまで聞こえてきた。

 菜津は立ち上がって階段の前で、横目で俺を見る。


「それじゃ、あたし行ってくる。撮影を見ていたいなら見てていいけど、あくまで撮影だからね。あたしをジロジロ眺めないでよ、気持ち悪いから」

「はい、わかってるよ」


 冷ややかに釘を刺しておいてから、菜津はテラスの階段を降りて撮影場所の砂浜に歩いていった。

 俺はこのテラスから、菜津のグラビア撮影を眺めるとしよう。

 不祥事でも起きそうになったら、すぐに駆け付けられるようにな。

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