「近くて遠い部屋」二次元蟻
二次元蟻だなあって思いながら読んでました。
蟻は二次元なので、壁から落ちると三次元に突入してしまうため消える、という話です。三次元蟻とかではなく、算数の先生などがよくジョークで言うような類いのものです。
あれに非常に近いんじゃないかなと思っています。突然ヒステリックに騒いでそこから蟻を見ただけで手を繋ぐ流れや、部屋に入った瞬間から情況や感情が真逆に接続される部分も含めて次元の変移や感情の立体化を行っているのかなあとか。
舞台装置で感情を接続させるってのが、いいですよねこういうの。私の書いたやつの例でもうしわけないですが「わたしの心に飛び降りて」のリュックサックも「沼の姫君」の同人誌も、感情を接続させる舞台装置ではないので。憧れます。情況や装置が先にあるパターン。
戻って二次元蟻の話ですが、蟻には人間換算だとめちゃくちゃに力のある生物だったり、壁に張り付いて動く強靭な脚を持っていたりという特徴的な生物なので登場人物ふたりも何がしか人間ではない要素を持っているのかもしれないです。継続的に無重力下で過ごしていると重力に反発する骨の部分が必要なくなり重力下で立てなくなるという話も聞いたことがあるので、もしかしたらカルシウムの溶け出さないタイプのポストヒューマンとか、そういうのかもしれない。
芸術と蟻に関する表現だと私が見たなかでは、なんだっけ、火炎の樹だったかな、蟻だかなんだかを手にとって眺めて細部まで確認して最後につぶす、という表現があった気がします。リアリティたっぷりで細部まで確認し、そして最後に、つぶす。そして暖炉のそばでまたナイフを研ぐ、みたいな部分で。細部に徹底的にこだわる芸術家の真価みたいなものを見た気がします(たしかそのあと買い出しに行って、みたいなシーンのような)。そういえばあの作品も異色でエクスクラメーションが使用されてたんですよね。最期の最後、凄みを利かせるシーンで。老犬シリーズ中期以降、中期のものは抜けがありつつそこそこ確認してはいたつもりですが、エクスクラメーションはあれひとつで衝撃を受けた覚えがあります。この「近くて遠い部屋」にも使われているので、それが思い出されるのかもしれないです。「近くて遠い部屋」ではセックスもされないし殺し合いは起こらないし復讐もなされないので似て非なる感じはありますが。
舞台装置の話に戻ります。無重力下においても物体感の距離感は変わらない(もしかしたら引力関係は変わるので変動はあるのかもしれない)ので、近くて遠いのは部屋以外の何かなのかもしれないです。よく挙がるところだと魂(どこぞの作品みたいですが「魂が重力に引かれるか否か」みたいなのは宇宙開拓が行き詰まるタイプの作品にときどき出てくる)、あるいは遠近角度とか。
実際のところは二人の部屋は宇宙にあって、円筒形の部屋に入ってスイッチを入れたのではなく、スイッチを切ったのかもしれないなと思いました。それだと蟻の表現がそのまま「地球という二次元から宇宙に拡大して三次元を獲得した人類」で、円筒形の部屋はそのままポッドという捉え方にできます。そしてなんと蟻が宇宙に進出している(細かい重力変化に小さい生物が対応できている)ので、蟻の具体性と表現の厚みが半端ないことになります。
というわけで舞台装置と表現そのものについてほめちぎってみました。前回「沼の姫君」のKOがあったので、少し力をいれてみました。どうだったでしょうか。
ほめちぎりポイント》
・舞台装置の設置が秀逸
・蟻の表現がうまい
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