口笛にはまった大学生・守山はもっとうまくなりたいと一念発起し、浅草の口笛教室へ通うことを決める。自転車を漕ぎ漕ぎ、いざ行ってみれば、先達は小学生に女子高生。そして先生は音大出の美しい女性で。「アキラ先生」という彼女との交流の中で、守山は彼女に惹かれていき、そしてやがて、彼女が抱えてきた傷と向き合うのだった。
文字数で言うと短編ですが、内容の濃やかさに驚きます。舞台が設定ではなくドラマの起こる“場”としてしっかりと描写されているのもそうですし、そこに置かれた脇役さんたちが沈むことなく個性を押し出し、守山君やアキラ先生を動かす起爆剤として効いていて。構成とストーリー、どちらもお見事です。
だからこそ、恋愛ものとしては淡くありながら煮え切らない感はありません。……これは凄いことですよ。恋愛は濃さでカタルシスを押し出すのが普通なのに、淡いまま満足させるなんて。筆力! まさに筆力ですねぇ。
最後は小学生が持って行く浅草淡恋物語、実に趣深くておもしろいです!
(「駆れよバイシクル!」4選/文=高橋 剛)